短編 | ナノ
ベルトルトと微睡む

少しだけ息苦しくなって寝返りを打てば、背に回っていた手が、今度はお腹を撫でた。ムニムニと腹の肉を弄んだかと思えば、今度は縋り付くように固く手が止まる。ゆっくりとまぶたを開ければ、犬のぬいぐるみと目があった。この間気まぐれに彼がくれたやつだ。モフモフとしたそれは情けなく舌を出して愛嬌があるようで、真っ黒の瞳はその時その時に見る都度違う表情をしているようで不思議。シベリアンハスキー。何の犬だろうとぼんやり思っていたが、ちょうどこの間テレビで全く同じ犬が出ていたので晴れてこの犬の種類がわかった。真っ黒で、大きくて、ちょっぴりさみしそうな顔をするそれは、くれた本人に、ベルトルトに似てる。シングルベッドなのにもかかわらず二人で使っているこのベッドはもちろんキャパシティーを超えてるのだからキシキシミシミシよく軋む。それでも彼は私と一緒に居たくて、私も彼と一緒に寝たくて無理やり二人で体を縮こませて使っている。窮屈だけど、体を縮こませて私をぎゅうぎゅう抱きしめるベルトルトは見ていて可愛いし好きだ。寝相が悪いのは勘弁だけれど、彼は時折本当に生きているのかというぐらい静かに寝息を立てる時がある。まるで世の中から自分の存在を憚るように。けれども、それでも私に縋るようにして抱きしめて寝るのは、この寂しくて残酷な世界に対する最後の抵抗にも感ぜられた。要はさみしがりやなのだ(私もそうなんだけれど)。やっぱり飼い主に甘える犬に似てるなあと思う。


「寝てるの?」
「……んん。」
「そっか。」
「……んん。」


寝ぼけているのか、ベルトルトは唸るような返事を返したきりそれ以上口は開かなかったけれど、なにやらもぞもぞ動き出したかと思えば、私の脚に自身の足をのっけた。退かす気はもちろんないようだし、もし私が動けばきっと彼は不機嫌になるだろう。けど実際嫌でもないから何もせず、腹に回された手に自分の手をのせてみた。相変わらず大きくて冷たいそれは、ゴツゴツとしている。一つ一つ確かめるように触れれば今度は彼も私の指のあいだに自分の指をすべらせて、ぎゅう、と結んだ。自分の指よりも細長くて、触るたびに柔らかな皮膚とは違うひんやりとした特有の触り心地が好きだった。普段なら人前はもちろんわかりやすい愛情表現はしない寡黙な男であるけれど、寝ぼけているのかその行動は大胆だ。というよりも二人きりでいるとこの男は実に素直になって、ちょっとバカっぽくなる。このことは彼の長年の友人であるライナーも言っていたほどであるから本当だ。

「(コニー君たちにに見られたらおしまいだろうな。いいネタのされそう。)」
「……何が可笑しいの。」
「あり、起きてる。」
「……起こされたんだ。」
「(あ、不機嫌だ。)」

寝返りをまた打つ。視界には骨ばった鎖骨が見えた。少しだけ視線を上にすれば今度は白い首筋が見えた。暗闇の中で色濃くに影を落として、その喉仏がくっきり見える。ヨイショと体を動かして、なんとか視線を男に合わせた。ばちり、シベリアンハスキーの眼が見える。しょぼしょぼと眠そうにこすると、まだ少し寝ぼけた眼で私を見るとふにゃりと笑った。バカっぽいけど可愛いと思う。

「今すごく失礼なこと思ったね。」
「すごい、わかるんだ。」
「口元が笑ってるよ。」


ぶつくさいいながら彼ははだけたブランケットを私にかけ直すと、また目を閉じた。何だか寂しくって口を尖らせる。そうしたら「今朝は早いんだ」、と耳元で心地よいテノールが聞こえてこそばゆい。なんだ、お見通しだったんだ。息を吸い込めばブランケットの太陽の香りに混じって煙草の匂いがする。最初は嫌だったけど今はむしろこの匂いが好きだ。順応って怖い。窓の外はさっきよりも少しだけ明るい群青色になっていた。おやすみなさい、とつぶやいて額をくっつければ、背に回った腕の力が少し強くなった気がした、午前三時半。


2013.09.13.
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -