短編 | ナノ
ジャンクんちに突撃隣の晩御飯

「こんばんは。」
「帰れ。」

勢いよくドアを閉めようとしたらすかさず足をドアの隙間に挟み込んで阻止される。気がつかず束の間そのまま力任せに締めようと試みるも、「いたい!」という声に一瞬やべって焦って手を止めてしまうあたり案外俺も優男なんだなあと思ってしまうというか思っていいよな、これ。

「あー痛かった。あ、上がってもいい?」
「お前なあ、」
「お邪魔しマース。」
「ちょ、待て!」

俺の腕の隙間を上手くすり抜けていくところをむんずと首根っこを掴む。そうすれば何かのおもちゃみたいにうううという声を上げたそれ。そしてすかさず先程と同様に悲痛な叫びと子犬のような目。ふざっけんな、二度とその手は食わねえぞと眉間に深いシワを寄せてキッと睨みつければ、相手も負けじと目を潤ませてさも可哀想にジャン君、と名前を呼ぶ。ああ、もうコイツ何なんだよマジで。これじゃまるで俺が悪人みたいじゃねえか。先に言っいておくが断じて俺は疚しいことや悪いことなど犯してない。いや、確かに数分前までは暇だから借りたAVでも見ようかなとは思ったが、思っただけだ。

「ひどいよジャン君、何にも悪いことしてないのに、」
「してんだろうが、現在進行形で。つーかなんでいっつも俺なんだよ、たまにはマルコん家とかライナーん家とか、そうじゃなくてもサシャだのクリスタだのにしろよな。」
「だって、お隣さんというよしみじゃないの。」
「だからなんだ。毎回毎回乞食みてえに人んちの夕飯集りやがって!」
「だってジャン君お料理上手なんだモーン。それに、ほかの人んちにいきなし行って夕飯だけご馳走になるのなんて迷惑じゃん?」
「俺の迷惑についても考えねえのかテメーは。」
「ジャンのオムオムたーべーたーいー!」
「うるせえ!つーかオムオム言うな!」

駄目だこいつ、もう。話せば話すほどコイツの発言に頭が痛くなってきて思わずため息を吐いた。そんな俺の気も知らずコイツはキョトンとした顔を向けたかと思えばクンクンと人んちの匂いを嗅いで、挙げ句の果てに「あ、今日はカレーだね!」なんて嬉々として言いやがったのでもう泣きそうになる。

「ちょうど良かった、実家から大量に福神漬けが昨日届いたところなんだ!」
「何が丁度良かっただよ、話終わってねーから。」
「もういいじゃん、寒いし中入らせてよー。今一回戻って福神漬け持ってくるね。あ、そういえばジャンくんにいつもお世話になってるよってママに言ったらさ、ママがジャンくんにあげなさいってメロン入れてくれたんだー。それも持ってくるね。」
「マジかよ。そりゃ、わりいな。」
「ううん、全然気にしないで。あ、今のうちにご飯作っといてね。今日のデザートはメロンだよー!」
「おう、先に入って用意しとくから早く来いよ」
「はーい!」

バタン。

「…………………。」

………って、

「なんでこうなった。」

気がつけばエプロンをつけてキッチンで二人分のご飯をよそっていた自分を殴りたい。今回こそはと心を鬼にしたつもりが、いつもこうなってしまう。とはいえもうちゃっかり炊きたてのご飯をよそった上にカレーを盛ってしまった今では後の祭りか。

「おいしそー、今日はチキンカレーなんだね!あ、メロン冷蔵庫ん中入れとくね。」
「……おう。」
「福神漬けのせちゃおー。」
「……おう。」

あれよあれよという間に結局流れに逆らえず、彼女と食卓を囲むことになっている自分を殴りたい。そんな俺等露知らず、横で福神漬けをこんもりとカレーライスの乗ったさらに盛り付ける名前の楽しそうな顔ときたら。いつもこんな調子で俺は最終的にこいつを甘やかしてきたけど本当にこれでいいのだろうか。おまけに大概恩を仇で返されている気がする。今日はメロンと福神漬けがあるからいいもんだが、いつもなら何もなくてもコイツは何食わぬ顔で「突撃隣の晩御飯!」とか抜かしながら他人の食卓に邪魔するのだ。ギブアンドテイクを知らんのかとつっこみたい。いや、今回のように、たまーにテイクできたにせよ、現実問題、ギブ&ギブ&ギブ&ギブ&ギブ&ギブ&ギブ&ギブ&テイクの割合で割に合わなすぎるのだが、

「(まあいいか。今日はメロンだし。)つーかそんな福神漬食わねーよ、これじゃ福神漬けがメインみてえじゃねえか。」
「あはは。でもこの福神漬ね、実家の近くの漬物屋さんので、めっちゃ美味しいからいっぱい食べて。」
「へえへえ。あ、メロンはお前が切れよ。」
「はーいっ」

(ジャン君って、大概私に甘いよなあ)

2014.03.23.
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