短編 | ナノ
ベルトルトが悶々してる

彼女は本当にいい人だ。実際、僕もそう思う。そして可愛い。ジャンはあいつはただのバカって言うし、ライナーは甘ったれだって言ってたけれど、二人共彼女の話をしている時の声はとても優しかったし、実際本気でそうは思ってないはずだ。ほとんどの人はそうに違いない。僕もその一人だ。純粋にいい人なのだと思っている。でも中には、童顔なのにおっぱいが大きいし、口が小さいからエロくて好きだっていう男子もいる。思春期だからそういう話題の一つや二つあってもおかしくはないと思うけれど、僕は彼女のそういう下世話な話をしている男子の声が耳に入るたびに悲しくて、それからむっとした。彼女はいろんな人とつるむけれど、そのくせあんまり自分のことは話さないのでよく噂にされた。それは彼女が時折見せるミステリアスな部分が影響してるからかもしれない。実際、時々彼女はふらっといなくなったり(だいたいこういう場合は保健室でお昼寝しているらしい)、ぼーっと窓際で物思いにふけっていたり(夕飯はなんだろうと予想していたりするらしい)している姿が、何とも神秘的に見えた。だからだろうか、どこからともなく誰かが、彼女の噂を流した。例えば、彼女が駅前のラブホテルで変なサラリーマン風の男性と入るのを見たとか(もちろん根も葉もない)、中学の時にグレて、その時に腹に根性焼きしただとか(中学から一緒だけどそんなの初耳だ)、右のおっぱいに蝶ちょのタトゥーがほられてるだとか(信じないけど少し興味がある)、いろいろ。僕はそれを聞くたびにそんな馬鹿な、と心の中で噂を流す人たちを馬鹿にして、それからやっぱりむっとした。
「名前。」
「ベルトルト。」
声をかければ彼女は笑った。彼女はそのキリンみたいな長くてふさふさなまつげの目を細めて、花のように笑うのだ。
「おかしいのよ、さっきのプールの授業で着替えてたら、ニーナが私のお腹見つめるものだから何?ってきいたの。」
「それで?」
「私が中学の時にグレてお腹に根性焼きしたって噂を聞いたからって。」
そう言って彼女はさもおかしそうに笑う。僕も少しだけ苦笑して、それから彼女の隣に寄った。
「実はね、僕も、君が変な男とその、ラブホテルに入ったって噂を聞いたよ。」
「あはは、エンコーじゃん。」
「うん。でも、そんなの嘘だよね。」
「さあ、どうだろうね。」
「えっ」
「ふふ、馬鹿ね。嘘に決まってるでしょう。」
「そ、そうだよね。じゃあ、その、君の右のおっぱいにちょうちょのタトゥーがあるのは本当…?」
「……なんで知ってんの?」
「ええっ!?」
「見る?」
「………。」
「嘘だよ。」
「……そ、そっか。よかった(のか…?)。」
そうだよね、といいながら頭を掻けば彼女はふふ、と笑って、それから少しだけ黙って、「みんな、バカだよねえ、本当に。」といって少しだけさみしそうに笑うもんだから、僕はやっぱり悲しくなって、噂をする彼らにむっとするんだ。

2013.10.13.
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