短編 | ナノ
マルコと戯れる

ごろんと転がれば草のいい香りがした。隣で彼は首元のボタンを外して、遠くの山を見ている。風はいつもより強くて、大地に映える緑が波のように揺らめく。海みたいだ。彼の綺麗な黒髪の毛もそよそよそよぐ。彼は座ったまま、遠くの連なる山々をただ只管見つめていた。春のような穏やかな気候であった。近くで飛蝗が飛んでいるのが見えた。少しばかり目を瞑った。太陽の光で瞼の裏は桃色だった。彼が隣にいることは目を瞑っていても感ぜられて安心した。手に当たる草草を少しだけ握った。草の小さないのちが掌から伝わってくるようだった。そのまま横を向けば見たことのある花を見つけた。私はそれを一つ手折ると目の前に持ってきた。日に浴びて葉やら花弁やらが透けて見える。昔にも見たことがある気がした。ゆっくりと移動して彼の膝に頭を乗せる。彼は何も言わずにそれを受け入れると私の頭を撫でた。そうして私を見た。ふわり。風が彼の髪を掻き上げて顔を見せる。私は彼の右目に小さな花をかざす。
「このお花の名前なんだっけ。」
「さあ、なんだろう。」
わすれちゃった、彼は小さく笑う。私もつられて笑う。とても綺麗だ。そう思って、少しだけ視界が霞んだ気がした。

2013.10.11.
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