短編 | ナノ
エース隊長があの娘に悶々してる

ゆっくりと瞼を開けば、玉ねぎの薄皮のように張り付いた雲が真っ青な空一面に広がっていた。太陽は柔らかく輝いて、船の甲板や帆を優しく照らしていた。北から吹いてくる涼しさを帯びた風が、まだ目覚めきれていない額や頬にあって気持ちいい。ゆらりゆらりと揺れる前髪を直してむくりと起き上がり、欠伸を一つ。良く眠れたようで、随分頭がスッキリしていた。やっぱり昼寝をするには親父の膝の上に限る。そう言えば親父はいつもみたいにあの独特の不思議な笑い方で笑うと、わしゃわしゃと不器用に私の頭を撫でた。髪の毛がぐしゃぐしゃになったが嬉しいから怒らない。嬉しくて嬉しくて私が甘えるように抱きつけば、親父もまた嬉しそうに笑った。

「名前、」
「ん?」

ふと、横から声が聞こえてきて振り向けば、少し怒ったような表情を浮かべて私を呼ぶエース隊長が居た。何か彼に不愉快なことをしてしまったのかと頭を巡らせているとまた、エース隊長が口を尖らせて私に言った。

「……いい加減親父から離れろ。」
「えー、嫌ですよ。」

なーんだ、そんなことかと胸を撫で下ろし、気にせず親父に抱きついたままエース隊長にそう言えば、隊長はぴくりと眉を動かした。ちょっと恐くなって親父に助けを求めようと視線を向けた。

「まあ、いいじゃねえかァ。」

親父は笑みを含めてそう言った。するとエース隊長はぷりぷり怒って「いつも親父の膝ばっかり乗りやがって」とか「速く膝から降りろよ」とかぶつくさ文句を言いながらもこれ以上は何も言えなくてあっちの方向へ行ってしまった。私はエース隊長の背中に向かってざまあみろーという風にべーと舌を出した。でもやはり彼の言う通り、私ばかり親父に甘やかされているので、きっと隊長は私にやきもちを妬いているのだろう。最近エース体調の風当たりが強いのはそのせいか。そう思うと少し申し訳なく思えたので、心の中で小さくエース隊長に「ごめんね」と謝ったら、ちょうど振り返ったエース隊長と目が合った。


「            」


遠くの方でエース隊長が私に向かって何か言っているような素振りで口を動かしていたが、聞こえなかった。だが少し怒ったような、恥ずかっているような表情だったのは確かに分かった。やっぱり隊長も親父に甘えたいんだな。でも柄にもないしきっと甘えられないんだ、そう思ったらやっぱり不憫に思う。


「(親父が羨ましい……!)」


2015.07.20.
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