短編 | ナノ
初心なエレンちゃん

その滑らかそうな肌に薄く延ばされた透明が馴染んでゆくのを見ていた。その一連の動作を幾度となく見て俺はその度に空の青と太陽の橙とを見てそれらを比べる。窓からは部活動をする人間の姿がちらほら見えた。そのくせ俺はまた幾度となく隣のそれに視線を向ける。太陽は相も変わらず肌をじりじり照りつけて容赦ない。名前は日焼け止めをいくら塗ろうがこう暑くては意味がない、と嘆きながらも懲りずに塗る。気休めなんだと言った。それからミカサの肌が白いのにひどく羨ましがっているようであった。そんなことは心底どうでもいいと思った。再び視線を隣にやれば。名前の首筋を伝う雫が輝いて見えた。
「夏は好きだけど嫌いかな。」
「どっちだよ。」
「肌が焼けるし。でも空は高いから好き。お祭りも。暑くてじめじめするのは嫌。」
スカートのプリーツが揺れる。じめじめとした風によって揺れる。カーテンも揺れる。窓から顔を出して女は両の手を太陽に向ける。その小さく細い手が光に透けた。溶けてゆくようだった。俺はその様子を呆れた様子で見ていた。教室からは「名前ちゃんと掃除やってよー!」、というニーナの怒った声がするが、本人は聞いてない様子である。
「焼けたくないんじゃかったのかよ。」
「なんかもういいや、あきらめた。」
「なんだよ、それ。」
ふふ、と笑って、それから突然大きく手をふり出す。それから大声で「ミカサー!ファイトー!」と大声を出した。そう言えば今日放課後女子サッカー部の欠員が出たからピンチヒッターで出るとかなんとか言ってたな。校庭ではもう練習試合が始まっているらしい。おかげで俺はこうして待たされているわけだが。まあ特に予定もないのでのんびり校内で時間を潰すつもりだったのだ(それをコイツに見つかって掃除当番でもないのに手伝わされている)。
「ねえ、エレン。」
「あ。」
「ガリガリ君買ってよ。」
「はあ?なんでだよ、」
「だってミカサ待つんでしょ?」
「待ってろって釘刺されたからな。」
「じゃあそれまで暇じゃん。」
「それとこれとは別だろうが。馬鹿。」
「おやつ食べながら待てばすぐだよー。食べようよー。購買行こうよー。」
シャツの白と空のあおが美しい二層系を保っている。太陽は女のおでこやら頬やら、腕やら、つま先立ちをした脚やらをじりりと照る。名前の眸が私を捉える。梨味が好き、名前はそう一言言って笑うと先に廊下を歩きだした。俺は再び窓の外に広がる空を仰ぐ。視界いっぱいに広がる光に目を細める。風が前髪を揺らす。太陽の熱いのが暑くなる頬を更に焦がすようだ。鼻孔に届く名前の残りがと暑さに眩暈がした。
「……馬鹿野郎。」
耳の奥でニーナの名前を呼ぶ声と、校庭で響く部活の声とが聞こえて、ゆっくりと足を動かした。

2013.10.11.
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