短編 | ナノ
身代わりになって逝く石田

栄養失調で度々倒れては周りに迷惑をかける彼であったが、それでも青白い顔をして毎日意地でも外に出て活動する健康なんだか丈夫なんだかわからない彼は、車にはねられて今しがた死んだ。そのくせ私のことはバカみたいに自分を顧みず助けたり気遣うものだからほとほと呆れていた。彼はいろんな意味で正直者で約束は決して破らないし、私との約束を忘れたり果たさないことは決してなかった。だからこそきっと私のことがすきなんだろうなあ、ということはきっと私本人だけではなく周りのやつも気づいていて、だからこそ周りも生暖かな目で微笑ましいものを見るかのように見守っていたのだと思う。彼とは小さい頃から幼馴染でずっと一緒だった。好きなものはほとんどかぶらないけれど嫌いなものは大概かぶるものだから本当に不思議で、でももっと不思議なのはそんな彼を私も好きだったことだ。


「今年の夏は海行こうよ。あとお祭りも沢山行こう。私のビキニ姿と浴衣姿みたいでしょ。」
「バカを言え。……まあ、行かんでもやらんこともない。」


頬をほのかに染めて気恥かしそうに斜め横を見る猫背の男は、今はもう私の目の前で呼吸をやめていた。口からは一筋の赤を流して。代わりに私は目から透明の雫を流した。サイレンの音が他人事のように脳裏に響く。周りは騒然としていたらしいが、今の私はぜんぜん気にもとめなかった。それから嗚咽混じり言葉がこぼれた。


「嘘つき。海行くって言ったじゃん、なんで私の代わりになったのさ、バカだよ。本当にバカだよ、」


2013.02.18.
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