短編 | ナノ
味方になってくれる優しい石田

人付き合いはうまい方ではない。人を信用できなくなったのは私が小学校の時だ。私は女の子ちょりも男の子ともともとつるむタイプであった。特に意味はない、もちろんクラスの女の子とも話す。だが休み時間はよく男子とともに外で遊ぶのが好きだった、ただそれだけだった。それをどう勘違いしたのか、クラスの担任は私のことをクラスの女子が除け者に扱っているのだと勘違いしたらしい。それから私は男子に疎まれるようになった。もともと仲が良いわけでもなかった女子ともすぐに馴染めることはなかった上、先生に贔屓目をされる私は好かれるはずもなかった。簡単に文章にまとめればこうだ。しかし当時の私にはそれが苦痛で仕方がなかったし、書いてあること以外にも相当な体験をした。それから私は初めて世間体を気にするようになった。はみ出したら打たれる。そんなことを思いながら生きる羽目となった。最初のうちはなれぬことをするのが苦痛で仕方がなかったのだが、人の順応とは見上げたもので、いつしかそれさえも感じなくなってしまった。私は人の顔色を伺って、自分の評価を最優先に行動するようになった。そのおかげか学生時代はいじめに関わることもないし、かといって幸運に恵まれることもない、平和で人並みの生活を負うこととなった。こんな私にも彼氏はできたし(もう大分別れてしまったけれど)、十分満たされていたと思う。しかしながら私は今まで友達も、自分の恋人でさえも信用できなかった。それがひどく悲しかった。結局私は人の顔色を伺い生きるしかできなかった。それでも私は時折ふとおかしいなと思った。その、時折感じる違和感は、私がまだ純粋であること証明しているようで嬉しいような、悲しいような気持ちにさせるのだ。
「ねえ、石田君と付き合ってるの?」
「え。いつからそんな話になったの。」
ササクレを気にしていた。講義は上の空で聞いていなかった。ただひたすらササクレから除くピンクの肉をみていた。いじりすぎて血が滲んでいた。講義室にはマイクを通して先生の声が講義室中に反響している。こそこそと話し声がかすかに聞こえる。その話声の一つがこれだった。となりではアイフォンをいじりながら講義を受けるきさで感じさせない友人がいた。友人と言ってもたまたまこの講義ともう一つ外国語の講義が一緒という共通点があるだけの友人である。ゼミが一緒というわけでもなく、飲み仲間というわけでもない、浅い関係である。しかし誰かが決めたわけでもなく私は決まってこの講義となると彼女のもとに座る。そうした方がいいと勝手に思ったからである。彼女はどこにでもいそうな茶髪の髪をゆるく巻いた少しだけチャラチャラとした頬のピンクの女の子。まるで高校生の延長のように、講義よりも恋愛、友達関係に興味があるらしい。なんだかバカバカしいと思った。
「なんでそう思ったの?てかなんで彼のこと知ってるの?」
「別に意味はないけど、よく一緒にいるの見てるから。」
かっこいいよね。彼女はそう言ってラインに文字をうっていく。この子には確か彼氏がいない。ああ、そう言う意味か。空気を読むのは、他人が言葉の裏に隠している本音を知るのは、もう難しくはない。私は皆まで言わなくても彼女が何を言いたいのかよおく分かって、それから少しだけむっとした。でもそれは彼女に悟られないように少しだけノートを取るために動かしていたシャーペンの筆圧を濃くした。多分、私は当分彼、石田三成と距離を置かねばならないみたいだ。カバンの中から買ったばかりのスマホを取り出す。そうすれば友達の横顔は心なしか機嫌良さそうだった。
「おい、」
「何。」
「無視するな。」
「してないよ。」
「嘘を付け。私を裏切る気か。それに最近可笑しな女から執拗に連絡が来るようになった。貴様が教えたと言っていた。」
「……ごめん。」
「なぜ謝る。」
「ごめん、」
「やめろ」
「ご、めん……。」
「やめろと言っているだろう。」
彼の顔を見ることができなかった。彼は怒っていた。私はそれに少しだけ絶望した。顔を上げろと言われてもできなかった。今の私がかれの顔を見たらきっと私は例の違和感に押しつぶされてしまう。彼は唯一私に気を遣うことをやめるようにいってくれた人なのに。もうきっと今回のことで彼とは終わりだと思った。
「あの女にはもう付きまとわぬように言った。」
彼には嫌われた。友人にも嫌われた。大学はクラスじゃないからいいにしろ当分は学校に行く気さえ起きないだろう。苦しい、息もできないほどに。吐き気さえ伴っている。脳裏に思い出されるのは小学校のあの風景だった。
「……ごめん。もう何もしないから。」
「私はそのことを言っているのではない。貴様はいつまで他人の顔を伺う生き方をするつもりだ。」
「…………。」
視界が突然黒くなる。
「もう、やめろ。」
はっと息を吸い込んで、ぽたり、と涙が頬を滑って床に落ちた。私の中の違和感とともに落ちていった。


2012.12.31.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -