短編 | ナノ
姐さんからカラス認定してもらう

「名前、飯食いに行くぞー。」
「うぃーっす。」


奇跡的にリハーサルを終えてライブ会場にも各々荷物を運び終えた頃はもう午後の六時を回っていた。それからみんなであすの段取りを確認し直して、それぞれ一年生はほとんど帰路についていたものの、私は何故か家康先輩の直々の指名で先輩方と最後まで音響や照明のリハーサルに付き合わされることとなった。だがどうやら夕飯をご馳走になるっぽいのでもうけである。
「孫市さんも行きましょうよー。」
「ああ。たまにはからす共と付き合わないとな。」
「わーいっ」


グイグイ姐さんの手を引っ張りながら無理やり誘えばふふ、と笑ってついてきてくれた。学校から最寄りの駅は池袋なので自然とそこでご飯食べよーぜーみたいなノリになった。いつもの顔ぶれの中にはいやいやついてきたらしい三成先輩と形部先輩元就先輩のものすごい剣幕が目立つ。行きたくないなら無理しなくていいのに、といえば貴様は来て欲しくなかったのかとなお恐ろし顔になったのでウレシイデスと返しておいたおかげで私は一命を取り留めた。


「お刺身食べたいお刺身食べたいぞーっと。」
「Ahー、酒飲みてえ。」
「ご飯が美味しい居酒屋ありませんかー。」
「西口にいろいろあるよねえ。居酒屋でいいの?ちょっと俺様探すわ。」


そう言ってサスケはすかさずアイフォンで周辺を探し始める。相変わらず西口は居酒屋があるせいかサラリーマンばかりだ。一応みんな固まって歩いてたはずなのに気がついた間にみんな各々好き放題やっている。すぐそばではメイド服を着た女の子にキャッチされつつあるおどおどする幸村に、慶次は何故か知らないおっさんと愉快に談笑している。三成先輩は女の子に逆ナンされていたが死ね、と言っているのを目撃した。ナニコレ超怖い。


「家康先輩、明日が思いやられますよ。」
「ハハ、みんな元気そうでなによりだ。」


いやいや器でかすぎでしょう。


「こうなったらキャバクラ行こーぜー。」
「どうなったらそうなんだし。」
「冗談だよ冗談。」


元親に至っては何故かもう缶ビールを片手に飲んでる。お前どんだけビール飲みたいんだよ。そうこうしているうちに佐助がいい店を見つけたらしくぞろぞろと歩き出す。通り過ぎるたびに人々が何あの集団みたいに見てくるから気が気ではない。


「あー、やっぱり目立つんですねー。孫市さん、付き合わせてなんですけど何かすみません……。」
「端からわかっていたことだ。」
「さすが孫市姉さん、半端ねえ……。」


佐助が調べたお店はなんだかんだ質の高いお店でそんじょそこらの居酒屋チェーン店とは違う奥行きがある。そういえばこいつらちらほら家が金持ちだっつう奴らが多いんだっけ。まあ、どうせ奢ってもらう気満々だからいくらだろうが別に気にしない。


「わーきれきれい。ディスイズじゃぱーん!」
「はいはい、ほかのお客さんがいるんだから静かにしようねー。」


佐助の制止もそこそこにお店に入ると綺麗なお店の店員さんが出迎えてくれた。大人数だからと予約してたらしく、佐助が予約してたサルトビですー、なんてにこやかに言えば店員さんは頬を朱色に染めて恭しく案内をする。私を見たときはここ子供ダメなんだけど、みたいな目を向けてきたのに、くそう。人はどうせ見た目か!にしてもなかなかの内装のお店で気に入った。今度また来ようかな、なんて既に思っている自分がいる。案内されたのは広々とした個室で、大きなテーブルが並んだお座敷だ。最近は大人数でも大丈夫なようにこういう風になってんだなあと感心する。


「下駄箱にちゃんと靴入れてね。あ、かぎも忘れずになくさないでよ!」
「はーい、おかん。」
「誰がおかんだ。」
「って、」


こつんと頭を叩かれるがそれも気にせず我さきにと一番真ん中を陣取ると早速メニュー表を見る。ここのお店は佐助が探しただけにご飯類も充実しているらしくたくさんいろんな料理が載っていて迷う。


「俺はとりあえず生だな。」
「私はとりあえずポテトだな。」
「んだよとりあえずポテトって。前代未聞だろ。」
「だって未成年なんだもん。」


からかう元親にべー、とあしらいつつメニューの中で食べたいものをピックアップしていく。すぐそばでは佐助が幹事さながら一生懸命にオーダーを店員さんに伝えたり、お冷やお皿を回したりしてる。勿論私もおかんのお手伝いはする。


「俺はbourbonだな。飯は適当でいい。」
「あ、そうだ。悪いけど学生証提示してね。一応年確義務だからさ。」
「めんどくせえな。」
「まあまあ我慢してよ、俺様だって気がついたら結局幹事でめんどくさいよ!」
「はい私のコレー。」
「いい子だねー、名前ちゃんは。まあぶっちゃけ名前ちゃんはなくてもいいけど。オレンジジュースでいい?」
「どう言う意味!?……オレンジジュースがいい。」


大人しくそういえば何故かよしよしと頭を撫でられた。もうどうにでもなれ。


「では代表してわしが乾杯の音頭を努めよう。」
「家康うううううううううううううううううううう!」
「三成先輩うるさー。」
「…………。」


しょぼんとしている三成先輩を形部先輩がよしよしとなだめる光景は見ていて物悲しい。あっという間にテーブルには美味しそうなごはんやおつまみに溢れ、先輩らの手には様々なお酒がもられている。にしても元就先輩日本酒のお猪口を持つていが似合いすぎてどうしようと思った。それに引き換え私はオレンジジュースだし、同じ真田くんも似たような烏龍茶だ。


「幸村ー、ソフトドリンク同盟組もうよ。」
「うむ。某等も負けじと飲みましょうぞ!」
「いえーい」


がやがやした中でついに家康先輩が立ち上がる。


「明日のライブの成功と、皆の絆が更に深まることを願って、乾杯!」
「家康ううううううううう「かんぱーい!」うううううう!」


三成先輩の断末魔と共に皆が一斉にグラスを傾けると各々食べたり飲んだりを始める。私はフォークでポテトをさし、もう片方の手にはオレンジジュースという重装備で夕飯を迎える。メインディッシュはメニューの写真が美味しそうだったので衝動的に頼んだ海鮮丼だ。まぐろや甘エビ、サーモンにイカなどは好きなんだけどいくらが嫌いなのでそれだけスプーンで避ける。


「はい、政宗くんあーん。」
「要らねえやつ寄越すんじゃねえよ。いくらぐらい食えるだろう。」
「だって苦手なんだもん。……あ、みつなりせんぱーい!」
「恐ろしい女だな……。」


冷たい視線を寄越す政宗を無視しつつ、いくらの山盛りスプーンを片手に三成先輩が座る場所まで歩く。三成先輩はお酒を飲むだけでごはんにはまだ手を出していないようだ。


「あれ、形部さんも何も食べてないじゃないですか。お腹すいてないの?」
「我のことは気にせず主は好きなだけ喰ろうておけ。すれば主も益々肥えて貫禄がつくというものよ。ヒヒっ」
「それ馬鹿にしてます?まあいいや、三成先輩いくら好きですか?」
「どうでもいい。」
「じゃあ食べても食べなくても一緒ならあげます。はい、あーん。」
「!?」


そう言ってスプーンを差し出せば三成先輩は動揺したように目を見開いた。そして私を見据えるとかああああっと少女漫画さながら顔を赤く染める。幸村と変わんねえ、と笑いを押し殺して差し出せば先輩は落ち着きを取り戻しつつ笑をこぼすと、くちをひらいた。


「ようやく決心がついたか、愛い奴め。」
「何がですか?」
「私の元に嫁ぐ気になったのだろう?」
「え、いつからそんな話になったの?ん?」
「ならこのいくらを食えば契を交わしたことになるのだな。」
「えちょっと待って、誰かこの急展開の解説をお願いします、」


おどおどしながら助けを求めれば形部先輩は助けるどころか腹を抱えて笑っている。マジ使えねえこの先輩。私が騒ぎ出せば周りも何事かとこちらに注目したものの、三成先輩がもう既に自分の世界に入り込んで私を引っ張ると自身の膝の上に座らせ、そしていくらのスプーンをぱくんと口に含む。


「見たか、下衆ども。私たちはこれより夫婦だ。」
「は、破廉恥なああああああああ!」
「旦那!ほかのお客さんもいるんだからね!つうか名前ちゃん嫌いだからって人に上げないの!」
「shit!石田テメエふざけんのも大概にしやがれ!」
「誰だ貴様は。」
「くたばれ!」
「大丈夫か?名前、」
「うわーん家康先輩助けて!みんながいじめるよー!」
「家康うううううううううううううううううううううううううう!」


そう言って家康先輩のもとに行けば状況はますます悪化した。


「ふ、お前も十分からすだな。」
「……これも全ていくらのせいだ。」
「全て貴様自身の自業自得よ。」

20130.02.26.
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