短編 | ナノ
ニコイチな長曾我部と毛利

死んだら輪廻転生を繰り返すより、一茎の花になりたい。寸でのところで読んだ一文が心に引っ掛かる。相変わらず重いローランドのキーボードを背負いながら、蒸されたアスファルトの上を歩む。溶けてしまいそうだ。黄色い地面の点々を態と踏みながら、学校への道のりを只管歩く。額に汗をにじませるサラリーマン、日傘をさして飄飄と歩くおばさん、真っ黒に日焼けした顔で自転車を漕ぐ小学生たちと幾度となくすれ違う。交差点を右に曲がる。学校までの道のりの間にはちょっとした商店街となっているので昼間から人は多い。

「あ、」

行き交う人々の群れの中で、ひときわ目立つ影を視界にとらえた。かげは私の間の抜けた声がどうやら聞こえたらしい。ズボンのぽっけに手を突っ込んでのそのそ歩いていたのを止めてくるりと此方を振り返る。

「名前じゃねえか。」
「元親。やっぱり目立つからすぐわかった。」

たったと傍まで駆け寄ると、また再び歩き始める。はい、と言ってしょっていたキーボードを手渡せば馬鹿野郎と笑って頭をわしゃわしゃされたが結局持ってくれた。元親の片手にはスーパーの袋が下げられている。中身は何かと問いかけようとしたら、それは彼の言葉によって遮られた。

「アンタ、ちゃんと覚えたんだろうな。まさか此処まで来て出来ねえなんて言わせねえぞ。」
「抜かりなし。昨日ほぼオールで覚えて来たからダイジョブ!」
「信用できねえなァ。結局いっぱいいっぱいじゃねえか。もっと余裕を持てよな。」

途中途中、商店街のお店の人が元親に気さくに話しかけたり挨拶したりしてした。いつの間にやら彼はここで知られているらしい。流石は人がいいだけあるのか、もともと気風のいい彼らしいと思った。ある一軒のお魚屋さんのおじさんが元親にお魚をくれてやっていた。連れて歩いていた私もおまけでドライアイスと一緒に真アジを貰ってしまった。申し訳ないような、今貰ってもこれから学校に行く身でどうしようかというような複雑な心境であったが、元親は全然気に留める様子など見せず寧ろ心から喜んでいた。部室の冷蔵庫にでも一時的に避難させよう。

「お。元親さん、彼女かい?」
「ああ?こんなちんちくりんが俺のかのじょなわけ、「はい、彼女です。」
「なんだ、やっぱそうかい。恥ずかしがってんのか、元親さんも案外かわいいとこあんだねえ。」
「ばっ、馬鹿野郎、てめえ、」
「彼女です。」

いらっとしたので嫌がらせがてら言ってやれば予想以上に元親は大袈裟に怒鳴った。いつもいじ(め)られてばかりなので優位に立つこの優越感に浸る、のもつかの間、元親の反撃が始まる。一頻り怒鳴って耳を真っ赤にさせたかと思えば、暫くして何か悪巧みでも思いついた嫌な笑顔をみせた。そして突然手を掴んだかと思うと、私の指と指の隙間に自信の指を滑り込ませた。ぎょっとする私をにたりと一瞥くれると努めて冷静に口を開いた。


「悪ィなあ、俺が大人げなかったぜ。そうだ、こいつが俺の女だ。」
「はっはっ、やっぱりそうかい。見せつけてくれるねえ。」
「まあな。大事な大事な彼女さんだからよぉ。一時も離れたくねえから、昨夜も夜遅くまでろくに眠らせねえで可愛がっちまってな、」
「ちょっ、元親!」
「この分だと今日も……」
「やめてよ馬鹿親!!」


元親の言葉にさすがのさかな屋のおじさんも困惑していたがそこはやはりいろんなお客さんを相手にしているだけあって悪乗りには慣れているらしい。下世話な話にもおじさんは豪快に笑って元親の言葉を受け流す。


「アンタらが中いいのは分かったから、もうよしてやりなよ、元親さん。その子ももううちで出してる茹でダコより赤くなってらあ。」


言われて余計に気恥ずかしくなってしまって、なんとかこの場を繕おうと弁明するも結局元親が言いくるめる上どうやら逆効果らしい。機嫌よさ気にいやらしい笑顔をみせる元親を悔し交じりのまなざしで睨んだが、見上げている時点ですでにその効果もないのだ。くそう。


「邪魔だ、退け。我の視界から消えるがよいわ。」
「って!」


はっはっと豪快に笑っていた元親の後頭部に何かが豪快に当たる当たる鈍い音がしたかと思えばすぐ後ろには見覚えのある影。


「あ、元就先輩。」
「てんめえ毛利、何しやがる!」


青筋立てて頭を抑えつつ怒る元親に負けないくらい凄まじい剣幕で怒る元就さんが相対する姿は本当にカオスだ。私がわなわな震える中で、商店街のおばちゃんたちはかっこいいねえ、とか若い男ってやっぱいいわねえ元気で、なんてのんきなことを喋りながらこちらを見ている。とりあえず喧嘩は回避しなければ。何しろあすはライブ本番、っこで足並みを崩されては(揃った試しはないんだけれど)私も困る。


「と、とりあえず学校行きましょう!せっかくもらったお魚も腐っちゃうし!」
「……ああ、どうだな。毛利覚えてろよ!」
「フン、」


なんとか収集したようでひと安心し、いそいそと学校へと向かっていく。私が二人の中立を守るべく自ら人身御供して真ん中を歩いていたが、毛利先輩は始終元親のとなりから離れよと忠告してくるもんだから本当に不思議だった。元親も私と元就先輩が一緒にいるのが気に食わないらしい。何だこいつら本当にめんどくせ。だがはっ、と気がついた。


「そっか、二人ともやっぱり仲良しだから隣にいたいんだ!」
「「絶対ない」」
「?」


見当違い?

2013.02.25.
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