短編 | ナノ
公然わいせつな伊達

もう諦めたと言いながらも女子がそれでも日焼け止めを塗る感覚と同じだと思った。駄目だと思っていても行かねばならないからこんな猛暑の都会の馬鹿が付くほど狭い道を歩いて、そうして池袋の雑踏を肩を何度か当てながらも抜けて、そうしてやっとのことで節電とか言いながらもがんがんクーラーのかかった講義室にたどり着く。

「(あーあ、そういうパターン。)」

なんだかんだ割と真面目な私は必ず講義の十分前には着く。というよりかは時間の逆算が出来なくていつも予想より早くついてしまうだけなのだが。夏休み真っ只中の補講は面倒であるのか勿論人は少ない。実際さっきメールで政宗から出るのが面倒というメールをもらったばかりである。この分だと慶次もきっと来ないだろう。とはいえ私のように真面目な人間もちらほらいるらしい。クーラーの良く当たる真ん中の席に一人で座ると、涼しさを満喫しながら前かがみになる。昨日剃ったばかりの腕はつるつるする。ふう、と息を吐くとずれたワンピースの肩ひもを戻した。そしてゆっくりと顔を上げようとすれば何者かに頭を押さえつけられるような感覚と、嗅いだことのあるキザッたらしい高そうな香水の香り。

「いて、」
「hey,honey。」
「来ないって言ったじゃん。」
「アンタが一人は寂しいって言ったから来たんだよ、you see?」
「解せぬ。てかサボるなよ。」

政宗は私との目の前の席に座った(クーラーが当たりやすい位置である)。それと同時に開始のチャイムが鳴る。結局慶次はサボるらしい。全くこの授業は必修であるというのに。あとでこっそりまつさんにメールしておこうと思いながら教科書を開く。教科書にはまるで小学生のような落書きがある。ドラえもんやうんこの落書きだ。ふと目の前に視線を送る。中年の先生が話している。政宗の背が高くて黒板が見えない。辺りを見渡す。たぶんこの授業は初めのころは軽く五十人は聴講していたが今や平均四十人程度、今日の補講に至ってはたぶん四十人にも満たないだろう。足を組み替えて、ボールペンをくるくる回す。ミネラルウォーターを一口飲んで腕時計を改める。まだ三十分も経っていない。溜息を吐いた。目の前の政宗を見る。政宗は普通にスマホを弄っている。どうせ女だ。こいつの女癖が悪いのは初めて会った当初から知っていた。というか女の方から寄ってくると言った方が正しいだろうか。こいつは女の子に徹底的に無関心だ。だからこそ付き合ってと言われればノーも言わない。かといってイエスも言わない。流れに任せ、去る者追わない。大学に入ってからはそれが余計に目立つようになった。噂も良く聞く。でもそれは私は殆どたちの悪い嘘だと知っている。幼馴染である私だから、この男のいいところと本当の部分を知っている。そしてこいつが中二病であるということも十分知っている。

「はあ、」

息を吐いてゆっくり吸い込む。相変わらず香水のいいにおいがする。男は依然として携帯を睨んでいる。伊達政宗という男は授業に来てもまともに授業を受けたところを見せない。その癖成績はいいので摩訶不思議であるし、むかつくのだ。特にこいつは語学科目が堪能である。いつもは中学レベルの英語しか言わない癖に。あとで小十郎さメールしてちくってやろうと思った。むかむかしてきて政宗の無駄に広い背中にうんこと書いておいた。

「なんだよ、構ってほしいのか。」
「ちがうよ、むかむかして。」
「やっぱり構ってほしかったのか。相変わらずcuteだな。」
「いま私はなんて書いたでしょう。」
「ちんこ。」
「さいあくだこいつ。」

政宗が大きい声でちんこなんて言ったものだから周りの女の子たちに変な目で見られた。私までどばっちりだ。政宗はそれを然も可笑しそうに満足そうに笑った。思わずふざけんなと言えばうるさいと先生にみんなの前で怒られてしまった。おかげで私だけが悪いみたいな雰囲気になる。すべてこいつのペースに飲み込まれている。それから授業後に真っ先に小十郎に政宗は授業もろくに受けず挙句の果てににセクハラまがいのことをしたとメールしたのは言うまでもない。ざまあみろ。

2012.08.04.
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