短編 | ナノ
野生の変態が現れたシリーズvol.2(サンジ)

「名前ちゃーん、」
「なあに?」
「ちゅーしていい?」
「は」









太陽の日差しが一際増すお昼休みも半ば、学食から教室へと戻ろうとして階段を上がれば、登っている途中から綺麗な金色の毛をした好青年が一人ひょっこり現れた。そして何を言うかと思えば、冒頭にも書かれた衝撃的な一言をさらりと何の躊躇いもなく私に告げると、彼はいつものようにへらりと笑った。

「いや、意味解りません。」
「だから、ちゅーしようて。」
「何で?」
「何でって、名前ちゃんのこと好きだから?」
「理由になってません。」

ぷいと視線を反らしてずかずか歩みのスピードをそれとなく速めるが、彼は素早くスマートに私の前に立ちはだかってこれ以上先に進めぬようにした。おいだれかこの眉毛を何とかしてくれ。

「退いて。」
「やだって言ったら?」
「泣く。」
「まじで?名前ちゃんの泣き顔見たい。」
「な、何かサンジ君何時も以上にサディスディック……。」

そう言って遠い目で彼をを見れば、彼はまたあはー、というような悠長な笑顔でまたさらりと流した。恐くナミさんであれば腹立ち紛れに一発ぶん殴っているところなのだろうが生憎私はそれほど自分の拳に自信がない。とはいえもしもの時は金的蹴りをかますつもりである。いらだちを募らせていると突然彼は私の腕を優しく引っ張ると、自分の胸に抱き寄せた。

「ぎゃっ!」

驚いて声をあげて身体をびくりと肩を竦めた。そして離れようと抵抗するが、そんなことは無意味だと言わんばかりに彼はそのまま私を抱き抱えた。お前はいつから王子になったんだ。あれか、巻眉毛星の王子か。

「離せー変態!」
「名前ちゃん可愛いいッ」
「サンジ君のあんぽんたん!変態!ころすぞ!」
「殺すぞとかい言わないで!」

ジタバタと足をばたつかせて罵倒を浴びせたが、彼は聞こえない聞こえない、可愛い可愛いとか訳の解らないことを言って私を抱えたまま、歩きだした。しかも進行方向は教室とは全く逆の方向で、彼は口笛混じりに階段を上りだした。

「あ、五時間目は俺と一緒にサボることになるからね。」
「そ、それ、どういう意味?」

そう私が問いかければ彼はへばりつく汗のような笑みを浮かべた。背中にぞくりとした悪寒が走る。そして周りを見れば、人通りの少ない棟の階にいた。此処の階にある教室は授業でもあまり使われないことが多い。

「ちょうど良かった、誰もいないね。」
「良くない良くない。全然良くない。」
「照れない照れない。」
「照れてない。」

ぽんと頭を撫でられたが私はその手をぱしりと叩いた。そしてやっと彼の腕から解放されて、自分の足で立ち上がると、教室の方向へと歩き出した。時計を見ればあと五分くらいで予鈴が鳴る時間だ。歩くスピードを速める。だがそんなことを彼が許す筈がなく、すぐに腕を捕まれた。

「待った、」
「授業はサボりません、」
「じゃあ、今キスしよう。」
「いい加減諦めましょう。私疲れた。」

溜め息を大袈裟に吐いて、睨むようにサンジを見た。反省の色は感じられない。それどころか私の唇まじまじと見ている。やばい。その目はまさに獲物を狩る狼の目だ。

「いつも邪魔者がいてなかなか一緒にいられなかったからさあ、あまりレディに手荒な真似はしたくないけれど……―」
「ちょ、ちょっと…。」
「我慢の限界なんだよねー」
「ひいっ…」

追い詰められて、私は背中を壁にしっかりとくっ付けられた。手を強く握られて抵抗さえ出来ない。耳に吸い付くように囁かれて目の前がぼやぼやしてくる。視界が濡れているようだ。頬に伝った生暖かな滴を彼はは優しく親指で拭うとそれをペロリと舐めた。私はひたすら怯えるだけだ。そしてついに唇が近づいてきた。

その時だった。

「……何やってんだよ。」

ぎょっとして声の方に振り向けば、いつの間にか奇抜なマリモのような頭をした男子生徒が目の前に立っていた。

「ゾロっ!」
「…チッ。」

その男子名前を呼べば、サンジは眉を潜めて不機嫌そうに舌打ちをした。ゾロはサンジに私を離すように言うと、無理矢理私の腕を引っ張ってサンジから遠ざけた。

「何でお前がいんだよ、マリモ。」
「ここの教室で昼寝してたんだよ。廊下が騒がしくて起きてみゃあ、こんな所で強姦なんて趣味悪ィな、破廉恥眉毛。それともこれが紳士のやり方なのか?」
「うるせえ……!」

二人の間に重苦しいカオスな空気が流れ始めた。私は二人が気を取られているうちに気づかれぬようにそそくさと抜け出すと、本鈴の鳴り響く廊下を、教室を目指して走り出した。次の授業はクロコダイル先生だから休むと生命に危機なのだから、全力で廊下を掛ける。まあとりあえず二人で相打ちでもしててくればいいよもう。




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