短編 | ナノ
クリスマスイブ

「ちょっと散歩しないか。」

扉を開けた瞬間、きんとした冬の風が、少しだけ火照った頬を撫でたので、ぶるりと肩を震わせた。
店を出れば少し浮き足だった街の空気と、イブの厳かな雰囲気とが溶けて不思議な心地を覚える。風に弄ばれ靡く私のマフラーを整えながら、鶴見さんは静かに、そう言った。
この季節、並木道の木は夜になると黄金色に輝き出し、そして道行く人々の手には彩どりの紙袋が握られていた。紙袋の代わりに握った手は少しかさかさとしていて、指先が冷たくひんやりとしていた。自分のそれよりも大きい親指の深爪をじっと眺めてみる。ささくれのない、白い爪の部分の小さなそれは角度によっては美しい桃色をしていて、爪の形も自分のものよりも平べったくて、やや固かった。
街のイルミネーションをぼんやりと眺めながら彼の行く通りに黙って歩いていたが、やがて傍らの紳士の足が止まると、自分もそれに倣って足を止めた。紳士の視線はある一点に向けられていて、そこからしばらくはまるで時が止まったように動かなかった。或いは、動けなかったのかもしれない。ぎゅ、と私の手を掴んだまま離さないその手は、時間を追うごとに握る力を強くさせているようにも思えた。

「入りますか?」

私がそう言えば
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