短編 | ナノ
ついったスキンシップお題vol.6(エース)

◎エース→オフィスで倒されたとき、相手から目をそらすことなく静かに口づけを受け入れ…【続きはwebで!】

「名前、」
「はい?」

淡々と打ち合わせを進行していく中、突然名前を呼ばれ、資料に落としていた視線を思わず上げる。勤務中に下の名前で呼ぶことはあれほど注意したのにと言おうとした瞬間、目の前の青年はほれ、という具合に自分の脛あたりを指差したので思わず視線がしたに向いた。彼の脛に特に異変は見られないが、反射的に自分の脛を見ておもわずあっと声を上げてしまった。

「あ、伝線…。」

今まで気がつかなかったが、ストッキングがだいぶ伝染しているではないか。一応カバンの中に替えはあるが、お手洗いはこの打ち合わせ室からはまあまあの距離であるし、今はこの青年基エースとの打ち合わせの最中である。いくら同期だからとは言え込み入った仕事の打ち合わせの最中にこのストッキングの件で中断していいものか悩みどころである。おまけにこの打ち合わせが終われば退勤だし、だいぶ気にはなるがこのまま続行させていただこうと思うに至った。

「あとで帰りの時にやるわ。ありがとう。」
「別に今やりゃいいじゃねえか。」
「トイレこっから遠いもん。」
「だから、ここでりゃあいいじゃねえか。」
「はあ?」
「俺は別に気にしねえよ。」

彼が同じ女だったらまだしも、よもや男性の前で着替えろというのかこの男はと思わず鼻柱をつまむ。まあ或は私が女として見られていないとも取ることができよう。たしかに打ち合わせももうほぼ確認事項だけでやってもやらずとも同じである。とはいえ私は女性としてここで着替えるのはいかがなものだろうか…。

「まあ、いいか。」

エースとは会社の中でも一番仲のいい同僚であり、これは本当に親密なものにしか伝えていないが最近お付き合いを始めた間柄である。今はどうせふたりっきりだし、ここに誰か入ってくるのは可能性としてほぼありえない。就業まであと五分少々だし、今日は残業もないからとっとと準備して帰るだけだし。ここは無礼講で、あっち向いてもらえばもういいことだ。私があっちを向いてといわずとも向こうはもう窓際で携帯をいじっている始末だ。

「はあ、」

息を吐くとカバンから新しいものを取り出し、履いていたヒールを脱ぐ。ちらりと窓際を見ればエースは橙色に染まるビル街の方を向いていた。相変わらず変えたばかりの6sをいじっている。一番傍のテーブルに腰を下ろすと、するりと履いていたストッキングを脱ぎ、袋から新しいものを素早く取り出す。そのままつま先を通そうとした刹那、視界に影が見えたので思わず視線を上げれば、先程まで窓際にいたはずのエースがこちらを見下ろしていたので目を見開く。

「何、」
「いや、なんつーか。」

橙を背に逆光でその表情が一瞬見えなかったが間違いなく私を見下ろし、先ほどの呑気な笑顔も消えている。言葉を濁したかと思えば彼は私の手を取り、もう片方の手で片尾をしたかと思えばあっという間に覆いかぶさった。あれ、という声を上げる暇さえない。胸がかれに圧迫されてやや苦しい。彼は私の足を割るように身を預けてきたので、生足が直に彼に触れる形となって思わず耳があつくなった。

「えーす、」
「ん、」

彼の表情を読み取ろうとした刹那、何事もなかったかのように彼は顔を近づけて私の唇に自らの唇を押し付けてきた。驚きのあまり目をつぶるどころかめいいっぱい見開いたまま、その口づけに甘んじてしまう。あれ、なぜこうなってしまったんだろう、と必死に頭を回すも徐々に酸素を奪われて、じんじんとゆっくり胸も唇も肺もしびれた感覚がしてくる。

「ちょ、どうして。」
「なんでだろうな。何かエロくて興奮した。」
「馬鹿!勤務中にあんたなんてことを!」
「勤務中じゃなきゃいいのか。」

そんなこと言ってないわといつもの調子でガツンと言ってやろうとすればそれは彼の指先で阻止された。エースは私の顎をくいっと横に向かせると、視線で壁を見るように私に指示した。壁にかけられた時計は、すでに定時の5時5分を回っている。再び視線を彼に戻せば、エースはとびきりの笑顔で私を見た。

「もう勤務中じゃねえよ。」

だからって職場でやるか普通。


2015/10/20(続きはWEBで感がまるでなし(^ω^)というよりもはじめからウェブだからなと開き直り。)
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