短編 | ナノ
飯をたかりにきた尾形が結局飯を作ってくれる話

ピピッ、と音がして気怠い聞くでを動かして脇に刺したそれを引きぬく。画面に表示されたその数字に辟易として、見なきゃ良かったと溜息を吐いた。今日は休日出勤だったが、早めに上がって正解だった。テーブルの上に置いてあったグラスの水を一口飲もうとして起き上がろうにも億劫で、ソファに横たわったまま頑張って飲もうとすれば、見事に胸元に水を零してスンとした。ティッシュで乱暴に胸元を拭取り水を飲むとテレビを消した。こういう時は不思議と体のいうことは聞かない癖に、聴覚が研ぎ澄まされるのか、テレビの音さえ不快に感じる。起き上がろうにも億劫で、どうせもうパジャマにも着替えたんだしと思ってブランケットを手繰り寄せる。そのまま眠りにつこうとすれば、玄関の方から軽快なドアホンが聞こえてきたのはほぼ同時であった。

●▲◆

「……なんですか」
「腹減った」
「すみません、ここ定食屋じゃないんですよ」
「寝てたのか?」
「…具合悪いんです」

何時もの癖で開けてしまったが最後、男は我が物顔で我が家に上がると勝手に冷蔵庫を開けて勝手に麦茶をグラスに注いで飲み始めた。私が具合の悪いことを伝えると「げっ」と言う顔をして、それから不服そうにソファに横になった。男からは微かに煙草の臭いと一緒に僅かにアルコールの匂いがする。駅前の千ベロにでも行ったのだろうかとぼんやり思って、それから加湿器のスイッチを押す。市販薬のせいか眠くなってきて、男が座ったソファに自分も座り横たわって男の膝に頭を預ければ最初こそ「重い」と不服そうに低い声で抗議されたが、男がテレビを付けてそれきり何も言わなかったのでそのままうつらうつらとしていた。煙草とアルコール臭いが致し方がない。

「随分硬い枕ですね…」
「大人しく布団中入れよ。」

そう言えば尾形さんはチャンネルを替えながらチラと此方を見下ろす。うっすら目を開けて彼を見上げてみれば、今朝よりも髭が濃い感じがして思わずおっさんだなあとぼんやり思う。何時もの癖で彼がポケットから煙草を取り出して口に咥え、ライターで火をつけようとしてピタリと止まり、チラと私を見るとそのまま煙草をしまった一部始終を見たら思わずふふ、と笑ってしまった。

「…あ、ご飯作ってないんで、適当に炊飯器からご飯よそって冷蔵庫から何か食べてください。」
「お前は何か食ったのか。」
「食べてないです……面倒臭くて」
「………」

男は突如立ち上がると(おかげで後頭部がボスッとなった)、そのままキッチンへと向かっていく。台所には確かカップラーメンだのボンカレーだのあったしもう勝手にやってくれという感じだ。お米だって今朝炊いておいた(休日だしどうせ尾形さん来ると思ったから)。こそこそと何を始めるかと思いきや男は台所の戸棚を物色し始めると、土鍋を取り出した。何をする気だと思いつつも眠くて欠伸を一つし目をうっすらと閉じる。そのうちに視界の端でわちゃわちゃしている男が何か料理的なことを始めていることに気が付いたのは十分くらい経った後だった。

「え、あ、な、何をしてるんですか…?」
「腹減ったから。」
「…へえ」
「へえってなんだよ。」
「尾形さんて料理できんだ。」
「一人暮らし長いから。」
「普段はご飯たかりに来るだけなのにね。」
「食わせねえぞ。」

むしろ食べさせるつもりだったんだと唖然としていたが、そんな私に目もくれず、尾形さんは冷蔵庫を開けると仁王立ちしたまま、ははあ、とため息を吐いた。

「ビールしかねえ」
「買い出し行くの忘れてましたわ」

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -