短編 | ナノ
なんだかんだ絆されていく

最近台風だの雨だので気圧が可笑しいせいか身体の健康状態も精神状態も芳しくない。少しの事でイライラしている気がする。仕事に対する集中力も欠いているし、直ぐに眠くなってくる。おまけに整理とくればもうメンタルは言わずもがな。こう言う時に限ってお局様の叱咤は飛ぶし、デスクワークでてんてこ舞いのところを、部署で一番若いからと言って荷物運びなどの雑用を頼まれるのでたまったものでは無い。駄目だ駄目だとブンブン頭を振り、部署の女の子達から貰ったチョコレートやキャラメルで何とかかろうじて自分のご機嫌を取るのが精一杯、月末の忙しさと言ったら、下っ端事務員の私でさえもお昼休憩が15時過ぎるくらいの忙しさだ。営業部なんて月末月初はこの忙しさに加えてピリピリした雰囲気に包まれていて、たかだか資料を届けるだけでさえもちょっと営業部には入りづらい感じだ。皆ノルマだの何だのと戦っていて疲弊しそして神経質になって眉間に皺を寄せがちになっている。ある男を除いては、だが。

◯△◇

「尾形さーん」
「………」
「聞こえてますよねー」
「………」
「退いてくださーい」
「退こうとしてるんだがな(笑)」
「((笑)じゃねえよ(笑)じゃ(怒))」

大きなアスクルの段ボールを持ってよいしょよいしょと営業部に運んで行こうとすれば、前方の人とぶつかってしまった。何しろ自分は背が高い方でも無いので今は目の前の段ボールで手一杯だ。
人影を認識はしたので咄嗟に左に避けたが、今度は目の前の人物も同じ方向に避けた為、慌てて今度は右に避けようとすれば前方の人物も右側に動いた。まあ、これくらいなら駅のエレベーターや、お店の入り口なんかでは良くある事だろうと思って今度は前方の人物の動きを待とうと止まれば、驚くことに前方の人物も動かなくなった。その瞬間、「さては…」と思って視線を下にすれば、見たことのある嫌味ったらしいハイブランドの革靴が見えて、出そうになった溜息を何とか飲み込んだ。

「退いてください、退かないなら手伝って貰えませんか?」
「しょうがないなあ、この優しい尾形主任の手を面と向かって煩わせることが出来るのは事務の女の子でもお前くらいだもんな。」
「誰が面の皮が厚いですって?」
「誰もそんなこと言ってねえだろうが」

尾形百之助主任。営業部でも常に成績上位のエース営業マンで、いつも飄々としている癖にノルマはそつなく達成するし、テラスで暇そうに煙草を蒸しているところを見たかと思えば、夜遅くまで残業していたり、真面目なんだか適当だか良く分からない、猫のような自由人だ。何故かは知らないが、入社当初から私に目をつけて揶揄ってはニヤニヤと楽しんでいる非常に性格の“いい”人で、女性の間では密かに彼のファンの子もいるようだが、正直顔が良かろうが何だろうが性格に難があれば全部アウトだ。もし他人から尾形主任はどう言う人かと問われれば、「パワハラ意地悪上司です」と簡潔に答える自信ならある。
そんなリベロ尾形主任はそのまま素知らぬ顔ですれ違うかと思いきや、以外にもその段ボールの中の荷物をいくつか抜きとってやると、本当にその荷物を持ってそそくさと今来た道をわざわざ戻って営業部へと歩いていくではないか。驚いてそのまま彼の背中についていき横に並べば、誰かからもらったのかチュッパチャップスを舐めているらしく、白い棒を口に含んだまま、こちらには一瞥もくれずに死んだ魚の目をさげて前方を見つめていた。

「尾形さんてチュッパチャップス舐めるんですね…」
「さっき部署の奴に貰ったから」
「(素直だな)」

月末の忙しさからついつい忘れていたが、今日はハロウィンだ。



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