短編 | ナノ
ついったスキンシップお題vol.5(パウリー)

◎パウリー→芝生の上に押し倒されて「痛いよ…離して…」と目をそらす。

「ねえ、何してんの?」
「ぅわあ!」
「ぎゃあ!」

驚いたとたん咥えていた葉巻を落としそうになってそれを回避することはできたものの、肝心の自分の体を支えていた手の力をその拍子に緩めたらしく、体は重力に従い下へと誘われた。どん、という鈍い音とがあたりに響く。鈍い音とはうらはらに体の受けた衝撃は少ないと見えて痛みはほとんどなく、何やら柔らかなものがクッションとなったらしく……クッション?

「いって、」
「…痛いのはこっちだよ、パウリーさん、」
「っな!」

最初は状況が飲み込めずにいたが、ようやく頭が回ってきたと見えて、自分が今何をしでかしたかがわかってきた。自分は今、声をかけた女の上に馬乗りになっているのだと気がつくのに数秒は要したが、それを知った途端に出た叫びは数秒もかからなかった。

「はは、はれッんむ!」
「しっ!静かに。」

正確に言えばこちらが故意ではないとは言え、危害をを加えたのでハレンチなのは自分かもしれぬが反射で出てしまいそうになった言葉を彼女がその小さな手で自分の口を塞いだので皆まで言うことは叶わなかった。静かにと言われてハッとしたが、何を隠そう自分は隠れていたのだったと思い出す。何しろ自分は今まで例の借金取りにあいも変わらず追いかけられていて、それを撒くためにこのウォーターセブンの小さな路地やら道なき道を抜け、かと思えばいつの間にやらよくわからぬ女性集団にも追われる始末で、気がつけば人の家の庭に侵入し、壁に張り付いて様子を見ていたのだった。不法侵入とは重々承知だったが、やむを得なかった。

「(あいつらしつこいんだよなあ…!)、」

まあ半分は自業自得なのだが。彼女と目が合えば彼女はにこりと笑ってこのままの体勢でいろと目で指示した。逃走中とは言えまさか知り合いの家にいたとは思いもよらず、挙げ句の果てにこのハレンチなシチュエーションとなってしまったのは本当に予想外である。とりあえず葉巻を芝生に押し付けてやむを得ず指示通りにする。

「ほら、パウリーさん、もう少し体を下にしないと見つかるよ?」
「ば、馬鹿言うな!これ以上下にしたら……」

ごにょごにょと思わず口を紡いでしまう情けない体を晒してしまったが、本当にこれ以上姿勢をしたにしようものなら下にいる彼女と体が密着してしまうのだ。もちろん彼女とは恋人同士ではない。仕事関係で知り合った仕事仲間であり、知り合ってからは飯に行ったりする中ではあるがそれ以上の進展は未だなかった。こちらが勝手に意識することはあるが、心優しい彼女はみんなに対してそうであるので俺だけが特別なわけではないのだ。今のこの状況下で彼女は馬鹿な俺を助けようとしてくれているのだった。その優しさが地味に辛いのであるが。

それにしてもふわっふわした庭の芝生が午後の日差しに照らされて心地が良い。しまかぜが吹き抜けて、お茶をするにはいい昼下がり、二人の男女が庭で絡み合った姿勢だなんて本当に生えレンチだ。これはほかのやつらには見せたくないものである。

「(カクやルッチに見られたら三ヶ月は引きづられるいいネタになっちまう…。)」

「あいつ、どこ行きやがった!」
「パウリーさんどこですかー!?」

「うげ、」
「結構近くにいるね。」
「……ああ。」

わりに近くで声がする。おそらくあのままベランダに張り付いていたら見つかっていただろうから、下に降りて正解だったが、今はこんな状況を見られることの方が危険な気がした。柵に絡みついた蔦や草木がうまく俺たちを隠しているが、立ち上がろうものならすぐに見つかりそうだ。なるほど、暫くは姿勢を低く保ったほうがいいだろう。動けば隙間から何かが動いていると気づかれて見つかってしまう。くしゃみさえ許されない。

「パウリーさん。」
「……ん?」
「今度は壁になんか張り付かずに直接うちに入ればいいじゃん。」
「…は?」
「今度逃げるとき。ベランダの窓開けとくからさ。」
「……お前なあ、独身の女が誰でもホイホイ入れるんじゃねえよ、破廉恥だぞ。」
「パウリーさんならいいかなって今思ったわ。」
「……頭が痛ェな。」
「うそ、頭打ったの?」

男として見られていないのか、それとも期待を込めていいのか、それともほんとうに先ほどの衝撃で物理的に痛いのか、もはや自分でもわからず、心配そうにこちらを覗き込む女の目と視線を合わせることができなかった。


2015/10/10
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