短編 | ナノ
ついったスキンシップお題vol.4(ロー)

◎ローお題→「どうしたの?」と何事もなかったかのように首をかしげたのでまだわからないならこれからどうなるか教えてあげよう。



「キャプテンもうねるよ。」
「ああ。歯磨きしたのか。」
「うん。キャプテンも早く寝なね。隈が濃いよ。いつもだけど。」

じゃあね、といって寝巻きをまとった名前が扉をしめようとするところを思わず止める。相変わらずもういい年だというのに子供っぽいナイトドレスを着続けているのは物持ちがいいからというよりかはコイツ自身が面倒がって新調することをあえてしていないのだろう。おかげで年相応に見えない。体もまあ恵まれているとは言えないが、それなりに数年の付き合いともなるとなかなかどうして可愛い気のあるものだと思えるものである。

「なあ、名前。」
「何キャプテン。」

こっちに来い、と視線を読んでいた本に向けたままそういえばやや首をかしげつつも飼い慣らされた牧羊犬のごとくそれに従う。何やら言伝でも頼まれるとでもおおかた思っているらしく、寝巻きの隙間から顕になる生足に気にもとめない。自分は相変わらずいつものようにソファの上に身を横たえて酒瓶を口につけて読書をする姿勢を崩さない。

「こんな時間から難しい話とかやだよ。お遣いなら、明日に回してね。」

お小言もやだよ、と付け足すと名前はこちらを見下ろす。くっきりとその頬にまつげの影が見えた。未だに何も言わずに静かに視線を合わせればふたたび名前は首をかしげたが、その直後、目を見開いてひゅっと息を吸い込んだ。ぐいっとその右手を試しに引っ張ってみたが、やはり予想通り存外いとも簡単にその体は動いた。赤子の腕をひねるも同然だなと思わずこちらが心配になるほどである。無防備という言葉はまさにこのモノのためにあるようなものだ。突然抗えぬ力により視界が反転した驚きからか、暫くは何も言わずに黙っていたが、それにしても冷静を保つ俺を見て名前は未だにイマイチ状況が分からぬようだった。

「な、何ですか急に……。」
「何です、か。」

鈍いというよりかはここまで来ると天然ものである。彼女に覆いかぶさるように自分の足を名前の足のあいだに差し込むとぎしりとソファが鳴った。ふむ、と腕を依然掴んだまま、彼女を見下ろす。自分でもよくわからぬうちに思わず笑がこぼれた。

「さあ、お前は何だと思う?」

(無垢なお前に何と問われれば、その答えを教えないわけにはいくまい)


2015/10/10
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