短編 | ナノ
ついったお題vol.3(マルコ)

あっと思ったときはもう遅かった。飛んできた弾は私の腹をかすめた。そこからどくどくとどす黒い赤が滲み出たが、こちらとて発砲を止めない。止めれば見方の誰かがまた前に進めなくなる。もう傷にかまってる場合ではない。

「名前。」
「、」

名前を呼ばれた刹那、ぐいっと引っ張られた。こんな時だというのに、それはもう冷静に、いつものようにそう呼ばれたので思わず頓狂な声で返事を返しそうになる。振り向いた刹那、目の前をひゅん、と鉄のたまがかすめたが、おかげで私の額に当たることなく弾はえらく美しい線を描いたまま消えてしまった。まるでスローモーションのようだ。あちらこちらで金属のぶつかり合う音と、うめき声、あらゆるものが焼ける音がする。生き物と鉄の焼ける匂いもする。初陣にしては少々これは酷な気もするが、今はそんなことを言ってる場合じゃなかった。敵からすれば私なぞ海賊その一、その二程度の存在で、彼らが狙うのはそれこそ我が隊長のように名を挙げているような人間だ。私なぞは道端の雑草に過ぎず、私の屍が転がっていても見向きもされないだろう。昔の歌で、オンリーワンになればいいだなんて歌詞があったけれど、そんな脳は嘘だ。そもそも唯一無二になりたいのなら、ナンバーワンぐらいにならなければオンリーワンになどなおなれぬのだ。私のような草の根は。だからこそ文字通り命をかけて前へ前へ進まねば。もとより道を踏み外した時から女のみであるとは言え覚悟していたのだから。だからこそ腹の傷などどうだってよかった。死ぬほど痛いけど、今はまだ衝撃で痛みもあまり気にならないし。

「名前。」

もう一度、しっかりとした声音で私の名を呼ばれた。海賊その一の腕を掴む慈悲深いナンバーワンの隊長の顔はいつもにもまして眉間にしわが寄っている。

「あの、隊長、」

何か言おうと口を開いた刹那、彼は私の手を握ったまま勢い任せに引っ張って、そのまま自分の胸へといざなった。その間にも数発私の体をかすめる銃弾。彼は匠にそれをかわす。私は案の定血が足りないのか、自分でもわかるほどに動きが鈍くなっていた。


「……マルコ、隊長、」
「生き急ぐなよい。」


だんだんとしらんでいく視界に美しく揺らめく青がいっぱいに広がって………━━━━


(2015.10.05.◎マルコ、「無理矢理」、「手を握る」、キーワード「戦場」、そういえば今日マルコ隊長誕生日やんおめでとう。)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -