短編 | ナノ
闇の尾形と一緒に堕ちる

「……あれ」
「……起きたのか。」

声がして横を向けば傍の男性はちらりと私を一瞥してからすぐに前方を向いた。イマイチ覚醒していない頭で前を向けば、何処かもわからない高速道路を走っている様子だった。ちょっと心配になって尾形さんをのぞき込んだが、もしゃもしゃとガムを静かに咀嚼しているだけで何も言わない。カーナビは別に何も指示しておらず、静かに今走行しているエリアを示していた。

「尾形さん…ここ、どこですか?」
「神奈川に行くとこ」
「か…神奈川…範囲広…」

思わずそう呟いて、それからあくびをする。ドリンクホルダーに入っていたミネラルウォーターを手に取ると自分を落ち着かせようとそれをごくごく飲みこんだ。尾形さんは何事もなかったかのようにハンドルを握ったまま只管前を進んでいた。ぼんやりとする頭で左手を見れば工場の夜景が見えた。暗闇の中浮かびあがる工場の近未来的なフィラメントにぼんやり見惚れていたが、暫くして再びまずい状況に陥っていることを思い起こして、再び視線を隣の尾形さんに移した。どうして私は神奈川方面にいるのか、ようやく本調子に戻った頭で思いだすことに努めた。

『尾形百之助』さんという人とこのように二人きりで出掛けるのは実は今日が初めてだった。尾形さんと出あったのはとある飲み会で共通の友人との紹介で知り合ったのが始まりであった。最初はあまり喋らないし、愛想もいい彼ではないので最初の印象は何を考えているか良く分からない人、という感じであまりいいものではなかった。だが、何とはなしに友人を交えてだが何度か食事やお酒の席に行くうちに連絡先を交換して親しくなっていき、そしてついに本日二人きりで朝からドライブデートを敢行するに至った。元々不思議な人とは思っていたけれど、話せば意外に普通の人だったし、見た目も年の割には渋めでスーツの似合うセンスのいい人だったので、あれよあれよという間に仲良くなっていった。話をすれば、私が通っていたカトリック系高校と同じ系列の私立大学病院に勤務されていて、彼もまたそこの高校を卒業しているらしく、母校の話題などで話が盛り上がったりもした。そして今日は満を持して尾形さんからドライブデートをしようというお誘いがあり、今に至る。

本日は本来ならば夕食を食べて、そのまま尾形さんが家まで送ってくれるはずだった。時刻を見ればちょうど日付が変わる頃合いで、もう終電も終わっている時間帯である。つい3、4時間前まで表参道にあるお尾形さんがお気に入りというお洒落すぎる隠れ家フレンチを楽しんでいたのだが、今や気が付けばはるか遠くの地に居た。確かあの時尾形さんは車の運転があるし、自分は何度もここを訪れているからと言ってワインを私にだけ勧めてくれていた。申し訳なく思いながらも彼の善意を無駄にするのも何だか申し訳なく思ってごくごく飲んだ。本場フランスで修業を積んだというシェフが作る料理は全て見た目も美しく味は絶品で、あまり美食家でもない私でも本当に感動した。ほっぺたが落ちそう、というのはこのことを言うんだなと素直に感激していれば、それを見た尾形さんも満足そうに笑んでいた。表参道の裏道の高級住宅街にひっそりとたたずむこのコンクリート打ちっぱなしで窓も大きく開放感のあるこのお店は、確かにお洒落な彼には間違いなく似合っていた。夢のような食事会を終えた後、彼はまだ閉まっていないだろうから見に行こうと言って私の手を引いて表参道まで戻ると、表参道ヒルズに入って(車もそこに停めていた)ジュエリー店を覗いた。

流石にどれも有名なお店ばかり集めた複合施設だけあってお値段も半端ではなく(というよりももはやお値段の表示もないのもあって、買うつもりもないのにヒヤヒヤした)色々な意味でドキドキしつつ見ていた。よくあるウィンドウショッピングだろうとるんるんと楽しんでいたのだが、とあるお店で可愛い小ぶりのネックレスを見つけて「可愛いなァ」と呟いたのを彼はきちんと聞いていたらしく、彼は何とその場でそれを買ってしまったのだ。驚いて咄嗟に「いいです!」と店員さんも驚くほど大声を上げてしまったが、彼は別になんともないようなお顔をして、これからは恋人として頼むという意味でプレゼントをしたい、だから受け取ればいいと、そう言って押し切って買ってしまった。確かに、その他のエンゲージリングや大きなジュエリーに比べればよっぽど安いものだったが、いきなりデート初日でもらうほど安価なものでもなかった。驚きのあまり口をあんぐりしていたものの、酔っ払っていて既にテンションは高かったし、今まで男性にこんなことをされたことのない私はあまりの喜びと衝撃に涙を流して感動した。

「夢ならばこのまま醒めないでほしいなあ、」と本気で思えるほど、あまりにも現実離れした幸せな時間過ぎて、その感想をそのまま彼に素直に伝えれば、彼は驚いたように目を丸くしたが、「安心しろ、現実だ」と言って笑った。そんな夢のような時間を過ごし、さあいざ帰ろうとすればお酒が入っていたためかだんだんと瞼が重くなってしまい、尾形さんの車の助手席に座った時には既に頭がぐらぐらしていた。そんな私を見て尾形さんはくすりと笑うと、ナビの設定をするから寝る前に住所だけ教えてくれ、と言ったので私はぼんやりとしていく頭の裏できちんと住所を伝えて抗いようのない睡魔に身をゆだねた。最後に耳に残ったのは、車のエンジンをふかす音と、「ゆっくりお休み」という一際低い尾形さんの笑みの含まれたような声だったことを記憶している。

「……尾形さん、これ」

其処まで記憶をたどり終えて、ふと自分の首に何か違和感を感じて手を伸ばせば、ひんやりとした小ぶりの何かに指の腹に触れた。それは間違いなく先ほど帰り際に尾形さんが買ってくれたネックレスで、薄暗い車内でも光に反射してその存在を確認できるくらいには輝いていた。だが、貰った時は紙袋に入っていて、もちろん開封はまだしていなかったはずだ。それに、自分は先ほどまでぐうすか寝ていたのだから、自分がこうしてつけることはあり得なかった。考えられるのは一つ、尾形さんが寝ている間に私に付けてくれた、ということだが、なぜ寝ている間にわざわざこんなことをしたのか、理由が全く見当たらず、この状況の可笑しさにようやく本格的にぞわりとしてきた。ぎゅっと着ていたスカート部分をぎゅっと握りしめれば、尾形さんは横目で私をちらと見て口角を上げた。

「似合ってるぞ、名前。」
「…ありがとうございます…尾形さん、何処に行くんですか?」
「いいところ。」
「………。」
「ふ、そんな怖がるなよ。」
「……そんなにお泊りしたかったんですか?」
「まあ、そういうわけではないんだがな。」
「……そうですか。」

そう言いながらいつの間にか車は高速を降りて、一般道に移動していった。勿論その間もこの車から降りることはできない訳なので無言のまま彼の思う通りに道をひたすら進んで行く。決して侘しい街灯もないような場所ではないが、かといって見知った場所ではないので、繁華で明るい横浜の街のフィラメントにさえ不安が募っていく。いっそのことそういうことをしたいのであれば逆に言ってくれれば良かったのにと思いつつも、心の内で私の第六感がこれは尋常ではないと警鐘を鳴らしていた。会話は途切れ、沈黙と重たい空気を流石に感じたらしい尾形さんはちらと私に視線を送ると、徐にFMをつけた。車は小高い丘を目指しているのか、横浜の町と港の様子が一望できる場所にづかづか進んでいるように見えた。FMの軽快な放送と、その景色に徐々に先ほどの恐怖感が解れて行って、本当に彼はただ単純に「いいところ」に連れて行こうとしているだけなのではないかと、そう思えてきた。

「ついた。」
「…わあ」

いつの間にか車は小高い大きな公園の中に入ったようで、車のフロントからは美しい横浜の夜景が広がっていた。思わず感嘆の声を上げれば、それを合図に尾形さんは一度FMを切った。思わずスマホを手に取り写真をいくつか撮り、感嘆の声を再び上げる。よくるるぶとかで見るこの美しい夜景を実際に見るのは実は初めてであった。関東圏内に住んでいるからこそ、わざわざ見に行く気もあまり起きないのだが、こうして目の当たりにすると、先ほどの工場群の夜景とは又違った精錬された町の美しさを感じた。窓を微かに開けているので潮風も入りこんで気持ちがいい。恐らくここは観光本でもきっと載っているだろうといういには素晴らしいポイントだと思う。周りを見渡せば車は自分たちしかいないようだったが、すぐ下の方はまだにぎやかな雰囲気を感じた。夜景をスマホに収めながら、あれがランドマークタワーかあ、とか、シーパラダイスはあの辺か、とかああだこうだ言いながら指をさして居れば久しく尾形さんが口を開いた。

「綺麗だろ。」
「あ、はい…!」
「怖がる必要なかったろ?」
「ご、ごめんなさい……」

ちょっと恥ずかしさと申し訳なさを滲ませて視線を送った。彼はふっと笑ったかと思えば、突然手を伸ばした。あれ、と思った瞬間には彼は私の首に触れて、それからつけていたネックレスに優しく触れた。

「男がこういう物を送るときには意味があるそうだ。」
「意味?」
「ああ。心理学には興味はあるか?」
「…ごめんなさい、あまり…」
「いや、いいんだ。恥ずかしがる必要はない。俺は職業柄そういうことを知ることが多くてな。」
「流石、お医者様はすごいですね。」
「そうでもないんだがな。…ネックレスを送ることは心理学的には何を意味するか分かるか?」
「…いいえ。何か意味があるんですか?」
「勿論だ。世の中には意味のないことなんか一つもない。どんな些細なことにも理由がある。」
「じゃあ、これはどういう意味ですか?」
「意味はな……」

嬉々としてそう問いかければ、尾形さんはにこりと笑って見せると、ネックレスに触れていた手を離した。そして再び柔らかにその手を動かして私の顎に触れたかと思えば、突然強い力でグイッと引きっ寄せられて思わずうわ、という声を漏らしてしまった。

「“独占欲”だ。」
「ど、どくせん…?」
「ああ。犬や猫によく首輪をするだろう?あれと同じだ。自分の者だと、主張したくなる。首輪をすれば他の奴らは手を出さないだろう?犬も猫も、人間も。」
「…あの、尾形さん…痛いです…」
「ああ。」

無表情でそう言うと尾形さんは鋭い視線で私を見たまま、ポケットからタブレットの入ったケースを取り出した。そして掌にミンティアのようなものを数粒放り出すと、徐にその白い小さな錠剤を口に含んだ。そのまま咀嚼するのかと思えば、私の顎を掴んだ手の力をそのままに、突然自分のお顔を近づけて私の唇に触れた。最初は触れるだけのキスかと思えば、突然舌をねじ込んできて無防備だった口内に侵入してきた。あまりに突然だったので驚いて舌を押し出そうとすれば、私の舌は彼の舌に絡み取られ、ずるずるととらえられてしまった。そしてどさくさに紛れて何か小さな粒がいくつか私の喉元を通過するのを感じて思わずせき込んだ。尾形さんはそれを確認するとふっと鼻で笑って、それからようやく唇を離してくれた。

「お、がたさん…」
「くるしかったか?悪かったな。」

再び訪れた不穏な雰囲気に思わずおびえた目をすれば、彼はふっと笑って前髪を撫でつけながら口を開いた。唇から自分のかともそれとも尾形さんのかとも分からぬ唾液が口元を伝う。先ほど飲まされた得体のしれない薬物か何かにひどくおびえておえっと吐きだそうと試みたが戻る気配はなかった。

「何を、飲ませたの…?」
「睡眠導入剤と麻酔薬のようなものだ。まあ、安心しろ。お前は体質的にあまり効果のないようだから。さっきも4時間程度で目が覚めてしまったようだしな。」
「なん、で」
「何で?」
「……どうして、こんなこと、」
「お前はもう俺のものだからじゃねえのか?」

良く分からない理論を提出されて度肝を抜いたが、だんだんと薬の効果だろうか、先ほどと同様の睡魔が頭の中にぼんやりと現れて、呼吸が遅くなっていくのを感じた。もうここまで来ると彼の真の目的は定かではなかった。あの時、エンジンを切って車を止めた刹那、思い切って逃げ出せばよかったかもしれないと後悔をしてももう遅い。目の前の尾形さんは脱力していく私をしり目に一度車から降りると、助手席側に移動して扉を開けた。頭の中ではもう恐ろしい想像が過って涙が溢れた。

「…いい人だと、」
「………」
「思ってたのに……」

私がそう言えば尾形さんはぴたりとその動きをを留め、目をまあるくして私をじっと見た。そしてその手で私のベルトを外すと、口角に弧を描いて口を開いた。

「そう言われると流石に良心が傷つくな。」
「………」
「まあそうおびえるな。まさか、殺されるとでも思ってるのか?」
「……違、うの?」
「殺しはしない。」

そう言って彼は私の脱力した腕を自分の首に回して抱き寄せた。何処に向かうのだろうと恐怖におののきながらも、それは意外な展開へと移った。私を抱き寄せて助手席のドアをバン、と閉めたと思えば、今度は直ぐ後ろの後部席の扉を開けて自分ごと中に入りこんだ。そして尾形さんは私を座席に座らせると、そこで一服を始めた。ゆらゆらと薄暗い車内で紫煙が燻りそして消えていく。煙草の炎がじりじりと心細く燃えていて、まるで今の私の心境のようだと思った。次第に意識が薄れていくような、あの眠りに入る前のまどろみを感じながらぼんやり尾形さんを見詰めていれば、尾形さんは横目で私を見下ろしながら笑った。視線を彼から少し下ろせば窓の向こう側から横浜の明るい街の光が若干見えた。そしてもう少し視線を落とせば彼のその膝の間に明らかに違和感を感じて、思わず呼吸を荒げた。彼は確かにさっき「殺しはしない」と言った。だが、それは裏を返せば殺しではない「何かはする」という意味であることをあまりもう機能をしない頭の裏で想像して絶望に打ちひしがれた。

「…さてと」

そう言って煙草を吸い終わると尾形さんはしゅるりと着ていたシャツの首元を弛めて、それから横で物言わぬ人形のようになってしまった私を抱き寄せて向かい合わせるように私を自分の膝の上に乗せた。もうこの時点で私は既に呼吸と感覚だけが機能し、体の自由が効かなくなっていた。

「薬が効きにくい体質というのは本当に考え物だな、名前。そう思わないか?」
「………」
「医療の世界ではよくあるケースなんだがな。麻酔が効きにくい体質で、手術中に感覚だけが生きている。術式中に眼が覚めて地獄を見た奴は意外に多いんだ。考えただけでも怖ろしい話だよな。」
「………、」
「多くの場合PTSDになって悪夢を繰り返すそうだが……これが反対に痛みではなく快楽を与えたらどうなるんだろうな?」

そう言いながら尾形さんは私の耳元で微かに唇が触れるような距離感で話を紡ぐ。右手は私の胸に触れていて、左手は私の膝の上を這うように触れている。つつつ、とどちらも敏感な場所にゆっくりと移動していて、思わずそのくすぐったさと羞恥に眉を顰めた。

「体の言うことが利かないのに感覚だけが生きているというのは、どういうものなんだろうな…」
「ん………」

ねちょりと耳の中にぬるりとした生温かなものが侵入して、思わずその温度とぬめりに声が漏れた。叫んで助けを求めたいのにそれ以上声がでない。くぐもった声を出すことしかもうできない。股に固いそれを押し当てられて思わずまた嗚咽がでそうになった。こういう事に興奮を覚える類の人間が世の中にはいるにはいると知っていたが、まさか目のまえの男がそれに該当するとは、先ほどまではしゃいでいた自分では夢にも思わず、自分の楽観さと軽率さに思わずめまいがした。下唇を噛めば彼はやめろと言わんばかりに今度は唇に唇を押し付けて、先ほどと同様に舌をねじ込んできた。

「…んんっ…」
「そう嫌がるなよ。これでも優しく努めようとしてるんだ。」
「…ふっ…」
「他の女ならもうとっくに何もせずに挿れてるところだ。」

落ち着かせるために煙草まで吸ったんだ、とうっすら開いた瞼の中で彼がそう言ってにやりと笑っているのが見えて鳥肌が立った。いつもこんな恐ろしいことをしていたというのか。被害者は私だけではなかったという事か。だが、まるで私だけを特別とでもいうかのように彼は宣って愛撫を続ける。キスをつづけながら私のブラウスに手をかけて、一つ、また一つとボタンをはずしていく。スカートもジッパーを卸されて、あっという間に下着と着ていたストッキングだけになってしまった。車内とは言え屋外だ。あまりの辱めにうんうんと必死に首を振ろうとするが、案の定身動きなど取れない。彼は私の纏っていた服を隣に捨ておくと、キスをしながら両の手を私の腰に回してさらにぐっと抱き寄せた。否が応でも苦しそうに主張している尾形さんの股間のそれが私のあそこにすりすりと当たる。彼はパンツの上からぐいぐいと自分のそれで刺激を与えながら、今度は片手で器用に私のブラをずらした。ぶるんとおっぱいが外気に触れる感覚がした。彼はすんすんと谷間に鼻を当ててその柔らかさと香りをひとしきり楽しんだ後、唇を滑らせて乳首をぱくりと食べてしまった。その瞬間、ちりりと子宮の奥が疼いて、乱暴されているというのにそんな感覚を拾ってしまう自分を心の底から恥じて涙が止まらなかった。

「可愛い乳首だな、もうこんなにぷっくりしてるぞ」
「……ん」
「どうだ、気持ちいいだろう?」

そう言いながらおっぱいにむしゃぶりついて、片方の手でもう片方の胸を揉みしだく。強弱のついた刺激に頭が混乱してくる。いっそのこと意識を手放したいのに感覚だけは生きている。まさに、彼が先程言ったようにある意味残酷なことだと思った。そのうちにやはり邪魔だったのかブラジャーのホックも器用に片手で外して、それから彼はおっぱいに引きつづき刺激を与えつつも、今度は下半身にふたたび手を伸ばし始めた。既にそこは繰り返される刺激によってぬるりと濡れていて、ストッキングの上からでもわかるほどにはシミができているようだった。ストッキングの上からその割れ目をつつ、となぞった尾形さんははは、と笑った。

「身体が動かない中で侵されて興奮したか?」
「………」
「それとも、もともと濡れやすい体質なのか……いやらしいな、名前。」

くすりとさも嬉しそうに笑うと尾形さんは無遠慮にストッキングを引っ張って、爪でぐいぐいと傷つけ始めた。そしてついぞびりりという控えめな音がしたかと思えば、彼はあっという間にストッキングを引き裂いてしまったらしかった。そして引き裂いたストッキングの間から指を差しいれると、パンツに触れた。じんじんと疼くそこに尾形さんは無遠慮にパンツ越しに指を立て、そこをすりすりと指の腹で丹念に刺激を与えていく。濡れそぼったそこをさらに丹念にぐずぐずに解していくのと同時に尾形さんがおっぱいを吸いながら刺激を与えるので息を乱して思わずくぐもった声を上げるしかできない。車内は男と女の吐きだす吐息と、じっとりした汗でどんどん湿度が増していくようだ。身体の自然現象とは言え、自分のにおいが充満していく車内の空気に羞恥で顔から火が出そうになった。

「…名前の匂いがするな」
「……んぅ」

尾形さんはようやくおっぱいから唇を離すとにたりと笑ってをじっと見た。そしてちゅうとキスをしながら、私のパンツを指でずらした。そしてずぶずぶと直に指を差しいれる。ずぶぶといとも簡単に彼の指を飲み込んだ。

「もうこれ以上解す必要ないな、」

そう呟いて彼はがちゃがちゃとベルトを外すと窮屈そうにしていたそれをようやく晒したらしかった。そしてぬるぬると濡れているパンツ越しにそれを直に宛てて摺り寄せると、先ほどと同じ様にパンツをずらした。そして一息ついたかと思えば間もなくぬるりと熱く太い圧迫感が下半身に入りこんできた。

「んぅ……」

感覚だけは生きているのでくぐもった声を出した。それ以上は声を出すことも体を動かすことももちろんできない。尾形さんは私の体を後ろに倒れないように支えながら上からずんずんと刺激を与えるように腰を動かし始めた。ぬちゃぬちゃと結合部の音が聞えてくる。ずんずんと深く奥を突かれるたびにじりりと刺激が体中を走って足の先にぴりりとした感覚がする。瞼が容易に開けないので感覚が研ぎ澄まされて快感を全て拾ってしまう。

「抵抗をされないのは都合がいいが、何処がいいのか分からんのは困ったな。」
「……はっぁ、」
「だがこれはこれで奥まで当たってわるくねえだろ?」

彼はそう言って笑うと先ほどよりも強い力でごつごつと奥を突いてきた。あたしが息を乱せば尾形さんは嬉しそうに鼻で笑った。

「……んっ」

もう快楽を拾いすぎて既にもうイキそうで眉をぐっと顰めれば、尾形さんはそれに気が付いたのか、片方の手でぐったりする私の体を支えつつ、もう片方の手で私の秘部に伸ばしてクリトリスを刺激した。ぎっしぎっしと車内が揺れている音がして、外から見れば怪しい動きをしているにのだろうと恥ずかしくて仕方がなかった。ましてやここはるるぶにも載っているような有名な観光スポットだ。人に見つかったらと
思うと、こんな辱めはないと思わず再び涙が流れた。

「イッた方が楽だろ。」

そう言いながら尾形さんは突然律動をやめると、あそこをつないだまま私を横に寝かせ、靴を脱がして正常位に体位を変えた。クーラーが効いているとはいえ、流石に熱いのか尾形さんは上の服を脱いだ。私の片足を尾形さんは肩にかけると、そのまま深くガツガツと腰の律動を再開した。

「……ん゛っ」

くぐもった声と同時に意識が一瞬遠退くのが分かった。尾形さんはそれでも律動はやめなくて、私の首に掛かったネックレスに触れた。

「………、」
「…締まるな、そんなに気持ちよかったか?」

そう言って腰の律動が早まってきたかと思えば、絶頂を迎えたばかりの中に再び激しい刺激を与えられて先ほどと同じ絶頂に上り詰めようとしているのが分かって、思わず瞼をぎゅっと閉じた。嫌なのにあそこに力が入ってしまって、それはただ単に彼に快楽を与えるだけだというのに止めることができない。車が律動に合わせて微かに動いて、身体だけではなくて、世界が揺さぶられて崩壊していくような、そんな感覚がした。

「ぁ゛…んっ」
「…ハぁ、」

ずんずんと最奥を突かれて二度目の絶頂を迎えた刹那、尾形さんはごつん、と奥を突いて、濡れた溜息を吐き出すのと一緒に私のお腹に吐精した。暫く私の体に自分の体を預けて息を整えていたが、尾形さんはようやく顔を上げて私を見た。ぼんやりとした視界の中、彼の黒目がちな眼に鈍い光を感じて、腹の底がひんやりとする恐怖が私の体に駆け巡った。鳥肌のたった私の腕をさすり、流れ出た私の涙を指ですくうと彼はそれをぺろりと舐めた。それから尾形さんは視線を私の鎖骨に移した。彼の瞳と同じく鈍く光る私の首に掛かるそれを見て彼は満足そうににたりと笑うと、それに手を伸ばして顔を近づけた。そしてちゅう、と小さな十字架に唇を寄せると彼はニコりと私に微笑んだ。

「…これからもよろしくな?名前。」


2018.07.29.
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