短編 | ナノ
ついったお題vol.2(エース)

もうあれからどれくらい時間がたったかさえわからない。もう自分暗闇の中でも目が見えるようになってきたというのに、視界がかすむのは溢れ出るそれを止められずにいるからだ。クローゼットのなかに潜むモンスターや夜中一人でトイレに行く時の恐怖、雷のあの轟音、青臭いピーマン、今まで生きてきた中で数々の苦手を克服してきたわけだが、どうにもこれだけは未だに無理だった。こんな年にもなって非常に恥ずかしいが、私は暗闇が恐ろしくて仕方がない。

「おーい、名前いるかー?」
「え、エース隊長ー?」

声を発すれば足音は近づいてくる。彼もどうやらランプを持っていないらしく、時折何かにぶつかってつまずくような音も聞こえたりしたが、私の鼻をすする音を頼りになんとか自力で来てくれた。私を見つけると彼はきっと呆れた顔でわたしを見下ろしたに違いなかった。

「探したぞ。まさかここにいたとはな。」
「…マルコ隊長に頼まれて倉庫の荷物を移動してたら、こんなことに……。」
「もうすぐ復旧するって言ってたから泣くなって。」
「もう十分以上経ってますけど…。」
「心配すんな。」

よっこらせ、という言葉と同時にとなりにふわりと人が座った気配がした。肩がかすめるほどの位置である。前にも似たようなことが起きて、ほんの数分後には治ったのに、今回はどうにも復旧が遅れているらしい。窓一つない、最下層なので光など届くわけもなかった。おまけに時刻は宵を回っている。倉庫には棚はもちろんそこらじゅうに所狭しと様々な箱やらよくわからぬ代物が転がっているのでひとりでに動くこともできない。動こうものならどんくさい私は体中にたんこぶを作ることとなるだろうと、ずっと一人で動かずにいたのだ。そのうち復旧するか誰か来るかを見込んで。

「お前のことだからどっかでぴーぴー泣いてパニクってるって思ってたが、随分賢明な判断じゃねえか。」
「だって、ここで無闇に動いたら怪我するだけですしおすし。」
「ああ。おかげで俺も膝だの肘だのぶつけまくったぜ。」

いてーとか言うエース隊長の呑気な声が倉庫内に響く。間遠に時折バタバタと騒ぐ音や声が聞こえたりするからまだ外も復旧してないみたいだ。先日停電になったときは食堂だったので、人が多くてぎゃあぎゃあ騒いでるところを隣にいたエース隊長になだめてもらったから平気だったが、ここでは一人だし怖いしで声もようでなかったのだ。

「つーかなんでそんな暗いの怖いんだよ。」
「だって、お化けとか、怖くないんですか。」
「人間の方が怖ェだろうが。」
「それもそうですが、お化けも怖いですよ。小さい頃読んだ絵本に怖いお化けが出てくるんですけど、それがトラウマで。」
「なんだよそれ。」

くく、と喉を鳴らす音が聞こえる。エース隊長は強い人だから怖くないのだ、きっと。

「それに、暗いと一人ぼっちに思えるんですよ。」
「一人じゃねえじゃん。」
「今は隊長がいるから。私小さい頃両親も兄弟もいなかったし、夜の真っ暗闇の中で怖くなっても一人だったし。だから夜も苦手なんです。」
「………。」
「静かで暗いと、余計に孤独が増すじゃないですか…。」

ごしごしと汚いが服の袖で涙を吹くと三角座りのままボーッとする。

「早くつかないかなあ、電気。」

ずるっと鼻水をすすり体を丸めたままつぶやく。エース隊長の声は聞こえない。まさかこの人寝たのか。確かにどこでも寝ちゃうタイプだし、その線は濃厚やな、とぼんやり思ってたら突然正面からぬうっと何かが伸びてくる気配がして「あっ」と声を上げた瞬間、ぎゅうっとした圧迫感が体を覆った。お日様のいい匂いが肺の中にいっぱいに広がっていく。

「t、たたたた、隊長!?」
「おう。」
「おうって!何ですか!」
「ギュってしてる。」
「知ってます!どさくさに紛れていたいけな乙女に何を!破廉恥な!」
「おま、人が可愛そうだと思ってやってやったのに。」
「いいです!いろんな意味で余計に怖いです!」
「怖かねえよ。何なら今日から寝るときにはずっとこうしたっていいぞ。安眠できるぜ。」
「ひいい!ハレンチいいい!」

でも悪くないかもなあ、なんて一瞬思ったのは絶対に内緒にしておこう。



(2015.10.05.◎エース、「泣きはらした顔で」、「正面から抱きしめる」、キーワード「停電」、存外攻めるエース兄やんに萌え)
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