短編 | ナノ
鶴見さんと姫納めと姫始め

「鶴見さん、今年もお世話になりました」
「こちらこそ。今年はおかげさまで笑いの絶えない、とても幸せな一年だったよ。」
「私もです。鶴見さんと過ごせたのがまるで夢みたいでした。来年も宜しくお願いします。」
「ああ。宜しく頼むよ。」

もう何杯目かわからないグラスのお酒を飲み込んでふう、と息を吐く。流しっぱなしのテレビからはもう何度目かわからないお仕置きでお尻を抑えながら苦悶の表情を浮かべる芸人さんが写っていた。酔っ払った戯れで先ほどからソファに身を預けた鶴見さんのお膝の上にお尻を乗せて恐れ多くも身を寄せていたが、怒られることも下される事もなかったので調子に乗って居座っている。鶴見さんはまだセーターとパンツを着られているが、物ぐさな私はもういつでも寝れるようにパジャマに着替えてしまっていた。開け放たれた窓からは豊洲の美しい海が見えていて、真っ暗な群青色の中で星空のような夜景が浮かび上がっている。あともう少しすれば有明の空にはまるで魔法のような目映いばかりの花火が浮かび上がるのだろう。毎年元旦の時期にはここでは花火が上がるのだ。冬特有の澄んだ空気が夜景と花火を本当に鮮明に映し出してくれるのだ。

「あともうちょっとで花火ですね。」
「ああ。あともう少しでカウントダウンが始るよ。」

お酒が回っているせいか鶴見さんの胸に身を預けていればその暖かさにだんだんと瞼が重くなってくる。今日は大晦日だからといってご飯もお蕎麦もたくさん食べてしまったし、余計に眠気が襲ってくる。照明も夜景が綺麗に見えるからといって間接照明しかつけていなかったので、うとうととしておれば食後の温かい紅茶を飲まれていた鶴見さんが耳元で小さく笑われて、慌てて目をこすった。

「んん、」
「もうやり残したことはないか?」
「やり残したことは…ありすぎて来年に持ち越しです」
「そうか…」
「鶴見さんはもう何もなさそうですね。」
「そんなことはない、私もそれなりにあるのだが、そうだな…」

突然するりと冷たい大きな掌が私の頬に添えられたかと思えば、ぐいっと顎を上げられて強制的に上を見上げることとなった。驚いてパシパシしていた目を開ければ、カッと目を見開いてギラギラした目で私を見つめる鶴見さんのお顔が至近距離にあってハッと息を吐いた。このお顔はよく知っているお顔だが、まさか、と思って背筋に冷たい汗が一筋流れた気がした。

「つ、鶴見さん?」
「ああ。2018年はまだあと半刻ほどあるのだし、やっておこうと思ってな。」
「何をするの…?」

ニッコリと笑うと彼は私のパジャマのボタンに手を掛け、片腕を私の背中に回すとその綺麗なお顔を私の胸に寄せて息を吸った。くすぐったくて身を捩るが勿論そんなことは許されない。服の上から唇で柔らかく胸を食まれるとくすぐったくて仕方がない。よりによってブラジャーももうつけていなかったのがよくなかった。

「きちんと『姫納め』をしていなかっただろう。」
「ん、」
「今から一緒にしような?」

暗闇の中でも分かる程のギラギラした目でそう言われてしまうと動けなくなってしまう。このお顔をした鶴見さんが『姫納め』だけで済むわけがないことはもうこの一年で嫌という程わかっている。きっとこのまま『姫始め』にこのまま突入するんだろうなあとぼんやり思いつつも、満更でもない心を隠すように彼の唇に震える自分の唇を押し付けた。


2018.12.31.
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