短編 | ナノ
鶴見さんと山梨までドライブデート紀行(中編)

「若い人、多いですね」
「そうだなあ、私は浮いてしまうかも知れないね。」
「そ、そう言う意味じゃ!でも、鶴見さん素敵だから違う意味で目立ってしまうかもしれないですね」
「名前は優しいな」
「(本当にそう思ってるんだけどなあ)」

近頃はSNSの普及のおかげか、若い人たちがこう言ったところで写真を撮ったりして観光客が増えているのだと、先ほどのほうとうの女将さんも仰っていたが、それはあのお店に限ることではなさそうだった。彼女の言う通り、山中湖周辺には色々なスポットやお店がある。ススキは思っていたよりもすでに秋らしさを見せていて、紅葉はそこまで顔を見せていなかったが美しい青々とした富士山また美しかった。この辺りは富士山のロケーションをたくさん見れる場所が点在していて、峠のそこここに車を置いて風景を楽しめるようなスペースがある。鶴見さんは思い当たる場所があるらしく、「SNS映えするところに行こうか」と車を出してくれたのだ。そこは山中湖と富士山を一望できる場所で、カフェも併設されている素敵な場所だった。

「綺麗、ススキがもうこんなに出ているなんて」
「これなら仙石原の方も綺麗かもしれないね。」
「はい!それにしても、すごい人。」
「私の若い頃もこんな感じだったよ。」
「へえ、」
「今の子はあまり車に興味がないかもしれないけれどね。私くらいの年代の男は皆車にこだわりがあったし、免許を持っていて当たり前だったんだ。」
「だから鶴見さんは運転がお上手なのね。鶴見さんのお若い頃はきっと景気がいいから素敵だったでしょう?」
「まあそれなりにお金は皆持っていたが、めちゃくちゃな時代だったよ。飲酒運転を取り締まる法律もない時代だったからね。今の若い子たちだって私からすればキラキラして眩しいよ。素直で話も上手で、謙虚だ。」
「そうでしょうか…」
「そうだよ。#name#を見ているとそう思う。」

パシャとスマホで富士山の写真を撮って画面を見ていれば、突然横にいた鶴見さんが覗き込んできたので画面を見せたら上手いな、と笑った。自然と体はくっついていて、くっついた右肩からじんわりと熱が発して体がのぼせていくような気がした。山から降りてくる風はツンとした寒さを帯びていたが、空気が澄んでいてとても綺麗で、肺の底から浄化されていくような心地だ。風が起きるたびにごおおおう、という低い音と一緒にススキや木々が揺れて、風に乗って楽しそうな人々の笑い声が耳に届いた。鶴見さんが風で少し乱れた髪をなで付けるたびにきゅん、と心臓が疼いて、指先がかすかに震えた。

「寒そうだな、大丈夫か?」
「ええ、全然。」
「こっちにもっときなさい。そうだ、私との写真も一枚撮ってくれいないか?若い子の間で流行っているアプリがあると聞いたよ?」
「ええッと、す、スノウの事でしょうか?」
「ああ、それだ。顔が面白く変わるやつがあるだろう。」

やって見たいんだよ。屈託の無い笑顔でそう仰られる紳士に思わず目を見開いてしまったが、鶴見さんは至って本気らしく、何事もなかったかのように私の肩に腕を回すとグッと自分の方に私の体を引き寄せた。思わずひっという声が上がりそうになったが、変な誤解を避けるため一生懸命に固唾と一緒に飲み込んだ。周りを見れば自分たちのことなど御構い無しといった具合で沢山の人が景色を楽しんでいて、こんなにイチャイチャして写真をとるカップルなど別に物珍しいものでも無いようであった。慌ててスマホを操作して彼のいう通りお目当のスノウを起動すれば彼は近い距離をさらに顔を近づけて画面を覗き込んだので、再び心臓が警鐘を鳴らし始めた。車の中でも感じていた彼の香りが鼻孔を刺激してもうこのまま私はいつでもOKですと言わざるを得ない精神状態に追い込まれつつある。だいたい、初めてのデートだというのにこの人は本当に人誑しというか、人との間の距離感とか無に等しいのか全然気にされている気配がない(でもそこが好きなので私も大概だと思っている)。

「なるほど、こうして色々顔が選べるのかあ」
「な、何がいいですかね、」
「うーん、あっ、犬やパンダとか動物がいいなあ。この猫耳可愛いなあ。猫ちゃんは好きだよ。」
「(ん猫ちゃんッ)」

まさかの猫ちゃん呼びに悶絶を抑えつつ彼のリクエスト通り猫耳を選択すると、そのまま手を翳してセットする。背が低いので試行錯誤していれば、見かねた鶴見さんがどこを押せばいいのかな?と言いながら私のスマホを貸して欲しいと言ってくださったのでそれに従った。何回か撮って満足したらしい鶴見さんはニコニコしながら嬉しそうにあとで送って欲しい、と仰った。こういう子供らしいこともするんだなと意外な一面が知れて私は本当に嬉しさのあまり隣の中学生男子のように「ヤッホー!」と叫んでしまいそうな気持ちだ。もちろんそんなこと絶対しないけれど。

「今の子はこんなものがあるのか。楽しいね。」
「えへへ。詐欺写真みたいなものですが。」
「確かに、信じられないくらい顔が小さくなって目が大きくなっていたね。自分がグレイマンかと思ったよ。」
「グレイマンって、ふふ」
「きっとこういうのがおじさん臭いと言われてしまうんだな。」
「いや、ちがっ」
「ふふ、いいんだ。もういい歳なのは自覚しているんだよ。…それより流石に体が冷えて来ないか?ああ、こんなに手が冷えてしまっているじゃないか。そろそろ店に入ろうか。あそこのカフェはミルクティーが女性に人気なんだ。温まったほうがいい、行こう。」
「あっ」

と声を漏らした以前には手を取られていてするりと彼の手が私の手を撫でた。びくりと肩が跳ねて彼が歩き出すのにワンテンポ反応が遅れたが、鶴見さんは私の手を取ったままカフェの方に歩き出した。カフェで暖をとった後、人がだんだんと増えて来たのでお暇した。峠を上り下りしていると車やトラックは勿論、連なったバイクなどとすれ違ってなんだか見ているだけで面白い。少し傾いた秋の日差しが横から差し込んで自分の髪の毛を照らすと透き通ってまるで黄金のススキのように見えた。鶴見さんが気を遣って流してくれるカントリーな曲もこの景色と相まって本当に素敵な世界観を演出しているなあと感心していれば、同じ方向ですれ違ったタンデムツーリングの女の子が手を振ってくれたので私も手を振り返した。

先ほどのカフェのミルクティーカップを膝の上で握っているとお膝の上に猫が寝ているようにポカポカして暖かい。昔見たイタリアが舞台のラブストーリー映画を想い起すようだった。主人公たちもこうして車を動かしながら広大でそして美しいイタリアの海や山や湖や、時には豪邸に赴いたり、小さな田舎に足を止めたりしながら旅を続ける。数十年前の恋人を探す、途方も無い旅だ。映画の世界をここの世界は勿論景色が全然違うが、この美しい自然に身をまかせるこの心地はきっと主人公が感じていた感覚と同じに違いない。思わず目を細めて景色を眺めていれば、BGMが切り替わって、山の向こう側に馳せていた意識を浮上させた。視線上げて運転席の鶴見さんを見上げれば、彼はチラと私を見て久しく口角を上げた。

「知ってるか?」
「『ジュリエットからの手紙』の挿入歌、ですよね?」
「ああ。マリカ・アヤンという、イタリアでは有名な女性歌手の『sospesa』という曲だそうだよ。イタリア語には明るくないのであまり歌詞には詳しくないけどね。」
「私も全然わからないです。でも映画は本当に好きで何度も見ています!マンマミーアでも出てた女優さんが可愛くて。ハッピーエンドだし、出てくる景色や食べている物も全部憧れてて、本当に大好き。」
「映画は私も好きだよ。イタリアは一度フィレンツェに出張で行った事があるけれど、あそこは本当に美しい国だよ。日本人と同じで食事にとてもこだわりがあるし、彼らは朝ごはんを食べながらすでに昼食や夕飯の話をするんだ。」
「ふふ、面白いですね。そんなに食事が好きなのね。」
「仕事で知り合った仲間も仕事の話よりも食事の話ばかりしていたよ。どこそこの店が美味しかったとか、あそこのお店ではこのパスタを注文するといいとか、お土産のポルチーニは市場のあの店で買えば安くて良質な物が買えるだとか…。日本人同士でなくともずっと食事の話題にはこと欠かさないんだ。おかげで滞在中は食事には困らなかった。」
「いいなあ。行ってみたい。」
「いけるさ。記憶は朧げだが、フィレンツェなら大体案内できるはずだ。フランス人と違ってイタリア人は英語で話しかけても英語で返してくれるしね。」
「それは心強いです。鶴見さんがいたらもうそれだけで安心だもの。でも、鶴見さんきっとイタリアの女性にもモテたでしょう?」
「そんなことないさ。日本では紳士的な対応をするとそれだけで女性に憧れを抱かれることはあるが、あの国ではそれは普通なんだ。イタリアの女性たちは小さい頃から周りの男性からチヤホヤされて育っているから、ちょっとやそっとじゃモテたりはしないよ。」
「そうなんだ…(鶴見さんでも太刀打ちできないとは)」
「でもだからこそ好意を示してくれた時は嬉しいものだよ。応えることはできないが、それなりに感謝をするし、敬意を表す。カトリック信者が多いし、日本人には自由奔放で天真爛漫に恋愛をしているように見えるが、意外に真面目な女性も多いんだ。日本の女性のように振られたら終わり、という感じではなくて、また会えたらお酒を飲みましょうね、という楽観的なところもある。」
「へえ。知らなかったです、イタリアの人綺麗な人が多いから、高飛車なイメージを勝手に持ってました(やっぱりモテてんじゃん…)。」
「確かに日本の女性に比べれば気が強い風に見えなくもないね。でも、イタリアに行けば日本の女性はモテるはずだ。特に、#name#のような優しくてフェミニンな雰囲気を持った女性は。」
「ええっ、そうかなあ」
「そうだよ。いつもニコニコしてて優しいからイタリア男は放っておかないはずだ。1人で広場に出たらあっという間に囲まれてしまうかもしれんから、イタリアに行った際はきちんと腕を組んでエスコートをしないとだな。」
「そうなるかは分かりませんが、きっと迷子になってしまうからぜひ宜しくお願いします。」
「任せなさい。だが、イタリアの前に、仙石原を案内してあげよう。もう少しで着く。駐車場が空いているといいんだが…」

峠を抜けながらそう呟いて鶴見さんは車のスピードを緩めていく。気がつけば前後に車が真珠のネックレスのように繋がってゆるゆると動き始めて、右から左から人の波が見えてきた。この辺りはホテルも多く、地元の人の散歩コースでもあるのか、犬を数匹連れた親子連れや、自転車でツーリングを楽しむ人も見受けられた。一つ目二つ目の駐車場が空いておらず致し方がなく奥の駐車場に奇跡的に空いている場所を見つけて車はそこに止められた。仙石原の草原まで10分ほど歩くが別に苦ではない。車を降りると間も無く人の波に入り込んで行く。手を繋いで人の波に従って歩いていると鶴見さんと一緒に大きな歯車の集合体に組み込まれたかのような気がした。ふと見上げれば鶴見さんのお顔と一緒に少し色づいてきた紅葉と、済んだ青が視界に広がっている。手をかざせばいつぞや聞いたあの歌のように血管が透けて行くように思えた。

「綺麗な空だなあ。」
「はい。」
「足元も綺麗だよ。落ち葉が落ちていてザクザク音がする。」
「秋の音ですね。」
「#name#は時折詩人のようなことを言うね。」
「改めて言われると恥ずかしいです…」

そんな他愛もない話をしている間に目の前に広大なススキ草原が見えてきて、それと同時に周りの人々もわあっと声をあげていた。横断歩道を渡って入り口までくれば、たくさんの人が写真を撮っていて、高原の向こう側には蛇のように人々の波が蠢いているのが見えた。まっすぐの一本道だけど、ここから見るだけでも途方もなく続いているように見えて、風に従ってそよぐススキの姿が海原のように感じた。

「めっちゃ広い!」
「最後まで歩いたら大変だろうが、行けるところまで行ってみるか。」
「はいっ」

手を繋いだまま歩き出せば、その後ろをまた別の人がついて行く。分かりやすい一本道が伸びている中で枝分かれしたり、かくれんぼを始める子供達の楽しそうな声と、あまり遠くに行くなと制する親の声が聞こえてきたと思えば、見知らぬ異国の言葉も聞こえてくる。写真を撮る人のいるところでは立ち止まったり、映らないようにお互い注意しながら歩いて行くと、どんどんあっという間に入り口が小さくなって行った。

「もしこのススキばたけで迷子になったら、どうしましょう」
「ふふ、私の背よりも高いススキばかりだから見つけるのは苦労しそうだな。」
「私なんてすっぽり囲われて影も見えないですね。」
「じゃあ、残念だがこのススキを全部刈らなければならないな…」
「とっても時間がかかりそう」

ふふっと笑えば鶴見さんもふっと口角を上げられた。鶴見さんも面白い冗談を言われるんだなあと思いながら、ススキと一緒にもうすっかり傾いてしまった夕日に目を細めた。

「写真、撮ってもいいですか?」
「もちろん。」
「今度は普通に撮ってもらいませんか?スノウじゃない版撮りたいです。」
「そうだな。」

そう言って鶴見さんは側にいたスマホに使い慣れていそうな若者に声をかけると、自分のスマホを手渡してにこやかにお願いをした。頼まれた若者は木の良さそうな友達集団、と言った感じで、快く了承をすると早速はいチーズ、と言いながら数枚撮ってくれた。仙石原の美しいススキの風景を心行くまで楽しみ写真の写し終わると、どちらから切り出すでもなく手を握りなおして来た道を戻って行った。











「すっかり暗くなってしまいましたね…時間、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。優秀な営業マンが付いてくれてるから、さっき電話したら全然構わないと言っていたよ。」

私が伏し目がちに問いかければ鶴見さんはふふんと笑っておっしゃったので少しホッとした。辺りはすっかり暗くなって、ハイビームをつけなければ分からないくらいには真っ暗闇が目の前に広がっていた。山の中とはこう言うことを言うのだなとしみじみと思いながらも、都内では絶対に味わえないこの夜道を実は内心楽しんでいた。流れるBGMも静かで秋らしいジャズが流れていてとても気障なのに不思議と違和感はなかった。夜のドライブをあまりしたことがなかったのだが、こういうこともたまには悪くないと思う。車はあっという間に山の方へと進んでいき、ようやく大きな建築物の影がうっすらと視界に浮かび上がってきた。ライトアップされた門構えに思わずどきりとしたが、車は事も無げにずんずん進んでいく。そのまますぐ傍に見えた駐車場に止まるのかと思いきやもう少し先へと車は進むと、もう一つの新しい門が見えてきた。門番をしているボーイが私たちの存在を確認すると鶴見さんは慣れたように窓を開けて懐のポケットから何やらカードを取り出して見せた。ボーイはそれを確認するとにこやかにお待ちしておりましたと述べるとそのまま門が開閉されてさらに奥の石畳の建物へと誘われた。

「ここは、」
「ここは新旧のホテルが繋がっているんだよ。こっちは新しい方でヴィラと言われてる塔の方だ。」
「へえ…何かが違うんですか?」
「部屋数を増やしたかったのと、デザインが若干違うのだと言っていたよ。ヴィラの方は少しモノトーンをイメージしている。普通のエ●シブ山中湖の方はファミリー向けの明るい雰囲気がするんだ。」
「なるほど、知りませんでした…」
「あまり若い子は利用しないだろうからね。」

フロントの車寄せに荷物だけ先に部屋に届けるようにお願いして預けると、車だけ置いて行こうと私を乗せたまま鶴見さんは地下駐車場へと車を動かした。中へ入れば案の定三連休1日目とあって駐車場は満車気味で、驚くべきことはそれだけではなく、並んでいる車のほとんどが高級車で度肝を抜かれた。たまたま隣に駐車したセダンに親しみを感じるくらいにはいい車ばかりで驚いていたが、鶴見さんは何事もなかったかのように私を車から降ろすといそいそとエントランスへと通じる入り口に入って行かれたのでその後を追った。

「疲れたから早く温泉に入りたいだろう?中にも富士山が見える内風呂があるんだが、オススメは露天風呂なんだ。今日は満月だからきっと綺麗に違いないよ。」
「素敵、入ってみたいです。でも、お部屋にも富士山が見えるお風呂があるだなんて、十分ですよ。」
「見事によく見える部屋を抑えたんだ。部屋のお風呂は富士山が見える時間に入ったほうがいいよ。」
「はい、ぜひ!」
「ああ、でもその前に、#name#はピアノをやっていたと言っていたね。」
「はい。小さい頃にちょっとだけですよ。」
「でもコンクールに入賞をしたことがあるんだろう?」
「あれはたまたまで鶴見さんに比べたら…」
「私は幼い頃に少し齧っただけだよ。ここのラウンジでピアノの生演奏をしているんだ。温泉に入る前に、良かったら聞きに行くか?それから温泉に入ってもいいかもしれない。」
「行ってみたいです!リクエストとかできるかしら。」

最初からわかっていたことだが、私は鶴見さんとお泊まりをするということを再認識して少しだけ足が竦むようだった。一応初めてのデートだし、かと言って初めて男性と一夜を過ごす訳でもない。ついにこの時間が来てしまったか、と言うのが率直な感想だった。エントランスはまるで異国の洋館のように黒を基調としたモダンなエントランスで、数人の人が長椅子にかけて談笑している。この時間でもチェックインする人はいるらしくさほど私たちが珍しいのではないのだと知ることができた。鶴見さんに座って待っていてくれと言われたでの静かに大人しく長椅子にかけて、ホテルの方が持って来てくださったウェルカムドリンク(色々選べたのでマスカットのジュースにした)を飲みつつぼうっと天井の照明やインテリアを見ながら、一体どれほどのお金をこの建築物にかけたのだろうと無粋なことばかり考えていた。

ふと横を見れば私と同い年くらいの女性が明らかに年上の男性と座ってお話をしていて、会話の内容から察するに、パパ活であるらしかった。私は今とやかく言う立場でもないだろうしきっと他所から見れば私も鶴見さんもパパ活に見えるのだろうと改めてしみじみと思った。それにしてもここにまでパパ活の波が来ているのかと、ちょっとしょんぼりしたのは事実だった。パパ活女子(疑惑)の隣に座るパパさん(疑惑)は鶴見さんと同い年くらいで、先ほど見た山中湖のお父さんとはまた違ってキリッとされていたが、やはり滲み出る教養では鶴見さんに劣るように思えた。お金はすごく持ってそうで(その左手につけているロ●ックスが静かに、そして雄弁に物語っている)、お育ちも良さそうな感じはするが、やはりどこか若い娘好きなちょっとそこはかとない厭らしさを感じた。隣の女性は目がさめるほど美しく、そしてどこか年齢にそぐわないほどの魅惑を感じた。私にはない色気を感じて思わず圧倒されてしまったが、きっとこう言う女性にお金持ちの男性は手を伸ばしたくなるのだろうなとしみじみ思った。彼女も露天風呂に来るのだろうか。男性は彼女を自分のものだと主張せんばかりに足をくっつけているし、女性は女性でこれだけお金を持っている男性を虜にできるのだと自信を持っているように振舞っている。こんな人たちもいるのだなと私はどこか違う目線で彼らを遠巻きにして眺めつつ、彼女の猫なで声に耳をすませていればすでに手続きを終えた鶴見さんが後ろから現れた。

「行こうか。鞄を持つよ。」
「はい、ありがとうございます。」

そう言って手を差し出してくださった彼にすっと手を伸ばせば鶴見さんはすっと引っ張ってくれた。そして鞄を持ってくださると、こっちだと手で指示して私を先に歩かせてから歩き出した。彼がこちらに来てくださったときに彼らの会話が止んだ気がしたのはきっと気のせいだが、心なしかちょっと誇らしい気がした。軽い心地で鶴見さんの横に並んで歩けば彼は私を見下ろしてにこりと微笑まれたので、私もぎこちなくはにかんだ。


2018.10.28.
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