短編 | ナノ
アダルティ鶴見さんに振り回されてる

「………っ、」

息を吸いこめばいいにおいがした。肌に触れて擦れる感触はまるで全身シルクに包まれているような心地よさだった。いや、実際に絹なのかもしれない。程よい柔らかに全身包まれて、このまま再び意識が遠のいていきそうになる。唸りながら寝返りを打てば、ごつんと額に何かが当たって思わず閉じた瞼を再び開けることに努めた。寝ぼけ眼でそれを見詰めれば、ふわふわのそれは微動だにしなかった。枕を手繰りよせて顔をうずめて、眠気と葛藤する。低血圧のせいか、いつもなかなか起き上がるまでに時間がかかるタイプだったし、今はあまりにも心地の良いこのベッドとシーツに身を預けていたい欲の方が勝っていた。

「…ふかふか」
「気持ちがいいだろう。ここのホテルのベッドは随分反響がいいらしい。」
「…どおりで。」
「中には同じ枕とマットレスをわざわざ買っていく利用者もいるそうだ。」
「へえー…」

とそこまで聞いて思わずぴたりと動きを止めた。一体自分は誰と話しているんだろうと思い起こして、ようやく瞼を開く。枕に顔を埋めていたせいで視界は真っ暗だったが、むくりと起き上がればぼんやりとした視界に見慣れないベッドサイドの姿が見えて思わずひときわ大きくぱちくりと瞼を瞬かせた。僅かに動けばシーツが擦れてぎしりとベッドが軋む。髪が一束落ちたのでかき上げて視線を下にすれば、自分の一糸纏わぬあられもない姿を視界に収めることとなって思わずおうふ、と変な声がでた。左を向けば、先程ぼんやりとした視界でみたふわふわが見えた。そのまま視線を上げれば見覚えのあるお顔が見えて、思わずさあああああと血の気が引いていくのが分かった。

「おはよう、名前。よく眠れたか?」
「つ、つつ、つ、つつる、み、さ」
「低血圧なのか、毎日出勤するのが億劫だな。」
「………おはようございます。」

そう言えば部長基鶴見さんはにこりと笑って今一度お早う、と宣った。ぽろりと零れ出た自分のおっぱいをもう隠す必要などないのだと、今この状況を見て判断し、昨晩のあんなことやこんなことを思いだして思わずそのまま再び顔を枕に埋めた。そんな私とは相反し、我が上司はシャワーを浴びた後なのか、石鹸の素敵な香りをぷんぷんさせてふわふわのバスローブに身を包みながら優雅に今朝の日経新聞の朝刊を見ていた。ぺらり新聞をめくる度に傍らから湯気を上げる珈琲の香ばしい香りが鼻孔を掠めた。1分ほど顔を埋めて勇気を貯めると本格的にむくりと起き上がって深呼吸をした。鶴見さんは新聞を読みながら私の様子を横目でじっと見て、それから珈琲を優雅に啜って口を開いた。

「汗を流した方がいいだろう。」
「…そうします。」
「朝食は10時半に予約したんだが、間に合うかな。」
「…平気です。そんなにかかりません。お気遣い、ありがとうございます。」

壁掛けの時計を見ればAM9時を回るところで、思いのほか十分に睡眠を摂れていたことが判明した。どおりで低血圧とは言えスッキリしているわけだ、その上、ベッドも上等なものだったし安眠できてよかったじゃないかと無理やり自分を心の内で納得させると、そのままブランケットをどかしてベッドから降りた。案の定、自分は一糸まとわぬ姿で、反射的に何か羽織るものを捜してしまったが、今更か、とも思ったのでそのままずかずかと寝ぼけ眼のままバスルームへと向かう。スリッパも履かずに上等な絨毯の上を歩いてバスルームへと歩けば、後から「下着はバスタオルの上において置いたよ」と声を掛けられたので咄嗟に、「す、すみませんっ」と返してバタンと浴室のドアを閉めた。

「………はあああああ、」

そこでようやく深く息を吐いて、それからへにょりとその場に座り込む。浴室の床は絨毯ではなく、シックな黒の大理石でひんやり冷たい。ブラインドの隙間から随分明るい世界を見ることができて、もう世間はもうとっくに朝を迎えているんだと理解することができた。よっこらせと起き上がって左を向けば大きな鏡にとんでもない顔をした自分が写っていて思わず意識が遠のきそうになる。洗面台とバスタブとシャワーが一緒の広いバスルームはまるで映画の中で出てきそうな綺麗な造りであった。自分がもっと若かったなら、インスタグラムに載せてやる!と息巻いて喜んでパシャパシャ撮っただろうが今は全くそんな気にならない。一先ずバスタブにお湯を張ろうとスイッチを押して、湯船が溜まるのを待ちながら乾いた口の中をうるおそうと歯磨きをする。2ボールのきれいな洗面台の上には高級会員制ホテルならではの有名店のシャンプーやローションなどのアメニティが並んでいて少し緊張した。シャンプーの小瓶を手に取り試しにくんくん嗅げばとてもいいにおいがして、先ほどの鶴見さんと一緒の匂いだ、と心臓が跳ねた。歯を身が空きながら色とりどりの小瓶を眺めていれば、その中に「バスジェル」を見つけて、思わず手に取ると悪戯をする少年のようにドキドキしながらお湯を放ち続けるバスタブに一思いにひたひたと入れてみた。石鹸のいい香りがバスルームに充満していくたびに、だんだんと先ほどの寝起きの憂鬱な気持ちが解消されていくような心地がしてちょっとだけ削られたHPが癒されていくような、そんな気がした。

「あ、バスジェル入れるといいよ。」
「ぎゃっ」
「ああ、もう入れてたか。」

こんこんというノックにびくりと肩を震わせた次の瞬間には勢いよく扉が開いたので、思わずゆっくり入ろうと思っていた身体をばちゃんと勢いよく沈めた。鶴見さんはひょっこりと顔を出すと、「ちょっと失敬、」と言いながら,そのまま洗面台に立ってお髭を剃り始めてしまった。それを黙ったまま見つめていれば、鶴見さんと再びばちりと視線が合って、再びびくりと反応してしまった。そんな私の気持ちなど露知らず、鶴見さんはにこりと笑うと、「そこの画面でテレビが見れるぞ。」と笑いながら謎の情報を教えてくれたので「そうですか…」と言いながら言われたとおりにボタンを押してテレビを見た。別に何が見たいというわけでもないが付けたらNHKだったのでそれをずっと見詰めながら、いつ出ようか出まいかと思案していた。バスジェルの泡が大量発生して全身を隠してくれるのはよかったが(もう既に裸を見られてるから今更なのだが)、これは早くシャワーを浴びなければならないだろう。

「(鶴見さん結構無遠慮に入ってきたな…早く行って下さらないかしら…)」

そうこうしているうちにお髭を剃り終えたらしい鶴見さんが鏡の中で顎を撫でながら丹念に確認した後、ようやく浴室を後にするかと思いきや、突然再び私の方に目を遣ると、何を思ったのかづかづかとバスタブの方までやってきた。ぎょっとする私もお構いなしに彼は近くまで来るとはらりとバスローブをはらりと足もとに下ろして、そのまま何を考えているのか私の入っていたバスタブに足を入れた。勿論一糸まとわぬフリチンで、である。

「つ、鶴見さん!?」
「少し冷えてね。私もいいかな?」
「きゃっ」
「失礼するよ」

思わず生娘のような声がでてしまったが、そう言ってしまうのも彼が突然私の腕をぐっとひっぱったかと思えば自分の方に抱き寄せたからである。ふわふわと泡が鶴見さんの肌にもまとわりついてアッという間に2人仲良く泡の中に埋もれていった。鶴見さんは私を自分の膝の上に座らせると、一緒にNHKを見始めた。もう何がしたいか分からない。

「あの、鶴見さん…」
「ん?」
「いえ……何でもないです。」

思わず視線を下にすれば鶴見さんは首を傾げた。これを若い子がやったらかわいいのだろうが、恐ろしいことにアダルティなナイスミドルがやってもかわいいことが今証明されてしまって謎の悔しさがこみ上げた。目と鼻の先には鶴見さんの御尊顔があるし、肌は密着しているしで、きっと心臓のこの大げさな音も彼には聞かれていることだろう。ひやひやしながら何を先にまず話そうかと頭をフル回転させているうちに、ぼんやりとHNKで今日の天気を見ていた鶴見さんが口を開いた。

「冷えないか?」
「あ、いいえ…大丈夫です。」
「よかった。このふわふわに塗れると、まるで映画のようだと思わないか?」
「ええ…なんか、昔の洋画みたいですね。」
「なあ。」
「私はアレですけど、鶴見さんは似合いますよ。」

私がそう言えば鶴見さんは面白そうに笑った。ラブホテルとはまた違うこの高級ホテルならではの精錬された雰囲気にさすがだなあと圧倒されつつ泡を一房掌に載せて映画のようにふう、と息を吹きかければ泡は素直に宙を舞って、それから大きな泡に飲み込まれていった。水中で触れ合った肌の熱とふわふわ水面に浮かぶ泡にくらくらしてきて、流石にこれ以上は逆上せてしまうので上がりますので…と切り出そうとすれば、突然テレビを見て黙っていた鶴見さんは何を思ったのか、両の掌を私のおっぱいをふにょりと後ろからやわやわ包み込んできた。

「っぁ、」
「泡まみれになったおっぱいも可愛いね。」
「つるみさ、んっ?」
「すまない、いつのまにやらこちらも逆上せてきてしまってね。」

そう言いながらいつの間にか固くなって熱を帯びだしたそれを私のお尻にわざと擦り付けてきながら、くにくにと乳首を優しく抓って来るので、思わず変な声を漏らして身体を捩る。鶴見さんの表情を伺おうと後ろを向いた瞬間、かぷりと待ってましたと言わんばかりに鶴見さんが私の唇を奪ってしまって、そのままねろりと舌で唇を押し入ってきた。

「っつ、るみさ…んぅ…っ!」
「もう一回、いいかな?」

許可を得るように言葉を口にする彼だが、もう選択肢など私には用意されていないことなど最初から分かっていた。それを理由に、彼のもう片方の手は既におっぱいから離れ私の大腿を撫でていて、長くて美しい指が私の秘部に侵入するのももう時間の問題であった。

「鶴見さんずるい…っ」
「大人は狡いんだよ。」

ごめんね、と言いながら再びぱくりと唇を奪われてしまったので、もうどうにでもなれ、と自棄になりながら、じんじんと疼く子宮と絡まる舌の熱に浮かされて、私の胸と秘部を愛でる彼の両の手に自分の両の手を優しく重ねた。


2018.08.12.
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