短編 | ナノ
恋人の鯉登君がかっこよすぎて嫉妬しちゃう

「あれ、鯉登さん?」
「…ああ!」
「(誰だ…?)」

初夏の日差しと西から吹く涼しい風が肌を滑って気持ちのいい季節で、今度の休日は新宿御苑に躑躅を見にピクニックしようと計画して晴れて今日御苑デートを敢行していた。人の少ない日当たりと景色のいい小高い丘にシートを敷いてお昼を食べて二人でごろんと寝そべりながら、お酒を飲んで本を読んだり身を寄せて景色を楽しんでそれなりに恋人らしいことをしていたのだが、そろそろ帰り支度をしようかなあと二人で思案していた時に、突然、いそいそと現れた女性に声をかけられた。よく見ると女性は女性のわたしから見ても美人である。どうやら先ほど来たばかりの隣でシートを広げて宴会のようなものを催し始めた数人の中の一人がこちらに気が付いて来たらしかった。話しかけられた鯉登さんは最初何だ、という風にいぶかし気な顔で彼女を見上げたが、思い当たったのか彼女に挨拶を返した。その様子を私がポカンと見ていれば鯉登さんは補足する様に耳打ちをした。

「会社の部下だ。」
「なるほど。」

彼女はどうやら同じ会社の方らしく、それに気づいた彼女が挨拶をしにわざわざ来てくれたらしい。何だか緊張するなと思いつつも私も会釈を返せば、彼女も気を遣って挨拶を返した。大型連休を利用して彼女たちも遊びに来ていたらしい。彼女たちはまだこれから催しを始めるようで、数人の女性は鯉登さんを見てきゃっきゃはしゃいでいる(男性も何人かいるようだ)。

「(鯉登さんかっこいいからなあ…)」

そろそろ帰ろうと思っていたところだったので、当たり障りなく帰り支度をしようとすれば、挨拶をしてくれた女性が口を開いた。

「よかったらお二人も此方で飲みませんか?」
「あーあ…でもお邪魔してはあれですし…」
「構いませんよ!お二人も誘おうって皆も言っているんです。」

うわあ、と思わず心のうちで思ったが、悪意はなく誘っていただいている手前、なかなか断りずらい。音之進さんも会社の人間が何人かあちらのグループにいるらしく、鯉登さんも断りずらいようだ。眉間に皺を寄せている。思案した結果、一杯だけ飲んでお暇しようということになり、私も音之進さんもいそいそと靴を履き、封を開けなかったワインのボトルを音之進さんが携えて彼らのもとに行く。ワインボトルを差し上げて自分たちはビールを頼んだ。音之進さんがすまなそうに耳打ちをしてすぐ帰るぞと言ってきたので、応えるように笑えば彼も安心したように笑んだ。とはいえ、音之進さんが来た瞬間女性たちがはしゃいだのが分かる。何人かは彼の言う通り会社の人らしく楽しく会話をしている。私も紹介してくれたので慌てて挨拶を何度か繰り返してちょっと気疲れした。

「…音之進さん、そろそろ。」
「ああ。帰ろう。」
「ええ〜鯉登さん帰っちゃうんですか〜」

アッという間に1杯ビールを飲み干してそろそろ帰ろうとすれば、鯉登さんがほろ酔いの数人に案の定絡まれた。これを一番恐れていたのだが、まあイケメンの性だろうとしみじみと思った。明らかに女性たちのテンションが上がっていたし、私を見て「あっ」ってなっていた。すみませんね、私が彼女で、とふんすとむしろ居直っている。それよりも音之進さんの会社の女性のレベルの高さに思わず度肝を抜いた。こんな女性のいる環境で働いておきながら私を選んだんだと思うとちょっと逆に不安になって来る。彼の周りには女性が多く集まっていて、彼がかろうじて私の腕を引いてくれているからよかったものの、そうでなければすぐに蚊帳の外になってしまいそうな雰囲気であった。

「用事がある、すまんな。名前、行こう。」
「うん、」

無理やりに近い形で音之進さんは私の手を引くと、自分達のシートに戻ってそそくさと準備をして逃げるように御苑を後にした。

「…付き合わせてすまなかった。」

しゅんとしたように眉根を下げて謝る彼に思わずふっと笑ってしまう。確かにちょっと厄介ではあったが、言うほど困ったわけではない。ただ、音之進さんがやっぱり人気者で女性にちやほやされているのを見てちょっと妬けたが。

「ううん、音之進さんやっぱりモテるんだなあって、再確認できました。」
「揶揄ってるな?」
「揶揄ってませんよ、ふふ、」











「………音之進さん、」
「なん…なっ…、」

声を掛ければ、それまで真面目な顔で本を読んでいた音之進さんが此方に視線を向けた瞬間彼はその瞳を見開いて動きを止めた。その間にも構わず彼の座って休んでいたソファに自分の体も載せて彼に近づけば、ぎしりと軋む。彼はぴしりと固まって口をパクパク開いたまま本を持っている手も留めていたが、私が迫るとはっと我に返ったのか漸くいつものようにワタワタし始めた。

「名前、な、なんなんだその恰好はっ」
「卸したての下着です、どうですか?」
「か、風邪を引くぞ!」
「じゃあ風邪をひく前に音之進さんがあっためてください。」

そう言ってじりじり寄ってみれば彼は顔を真っ赤にしてどぎまぎした。それもそうだろう。今の私は下着でこの部屋をうろついているのから。普通の恋人同士であれば下着同然の姿でうろついていても然程驚くことはないだろうが、こと音之進さんとなるとその話はまた別だ。勿論キスもエッチもする仲なのだが、このように私の方から迫ったこともなければ、彼も素面ではそこまで大胆な方ではない。意外にシャイなのでお酒を入れなければ誘ってこないくらいだ(意外に初心で真面目なところがある)。

「よ、酔っているのか?名前、」
「もう酔いはさめましたよ。」
「どうした、」
「どうした…というか…」
「う、わ」

とりあえず彼の膝の上に載ってみれば驚いたように息を吐いた。とはいえ、改めて問われると何となく引っかかって考え込んでしまった。人の膝の上で思案するのはとても滑稽なことだが、とりあえず視線を前にすれば膝の上だからいつもは見下ろされているが今日は彼を見下ろす形になる。とても驚いた様子で目を見開いて私を見ている。そして驚いた拍子に読んでいた本を落としていた。でも私を無理やり降ろそうとはしない。それどころか落ちないように私の膝に手を載せてとりあえずはバランスを保とうとしてくれている。動揺してもきちんと私に気を遣っているところにちょっと笑いそうになる。

「ちょっと妬けました、さっき。音之進さんもてるんだもの。」
「さっき…そげんこと、」

最初何を言われているか分からず考えていたようだが、思いだしたようで再度動揺したように私を見上げる。

「名前だって色んな男に話しかけられちょっじゃろう」
「それとこれとは別です。音之進さんの方が話しかけられてたし、肩とか腕とかちょんちょんしても嫌がってなかったもの。」
「思いっきり振り払うたや不自然じゃろう、」
「それはそうだけど…」

思わず正論を言われてしまって思わず考えあぐねいてしまう。そうしているうちにちょっと妬けただけでこうして大胆な行動に出てしまった自分が途端に恥ずかしくなってきた。ちょっと驚かしてやろうと思ってたまたま買ったばかりのちょっと際どい下着を着て迫ったら面白いかなと思っていたが、ちょっとやりすぎだったかもと思い始めた。そんな私をみてようやく落ち着いたらしい音之進さんがふ、と笑って私を見上げる。

「やきもちか…可愛いな」
「…なんか急に余裕そうでむかつく…」
「ないでじゃっ」
「恥ずかしいの我慢してこんなに頑張ったのにな」
「ふ。むぜ、いやらしかね、こん紐」

そう言って笑って私のパンティのサイドの紐を引っ張り出す。片方の手でやわやわとおっぱいを触りつつ、真ん中のレースリボンを弄んでくる。くすぐったくて身をよじっていれば今度はぎゅっと私を抱き寄せた。自然とおっぱいが彼の顔に当たる。というよりもむしろおっぱいに顔をうずめられている。

「くすぐった、い」
「見れば見るほどいやらしかね、こん下着。」

前の紐を引っ張れば普通におっぱいがぽろりしてしまいそうな構造だが、あえてそれをせず下着の上から手で触られたり唇で乳首のあたりを甘噛みされたり鼻ですんすん触られたり忙しなく弄ばれる。なんだかじれったくて腰を浮かせてしまったらまた鼻で笑われてしまった。とはいえ笑ってる割には音之進さんのあそこが主張し始めているので、反撃とばかりにズボンの上から彼のそれに触れれば、あ、と声を漏らした。

「ここ、苦しそうですね。」
「名前のここもな」

そう言って下着越しに陰部をなぞって来る男の武骨ないやらしい指にぞくぞくする。そして彼もだんだん我慢が出来なくなってきたのか、ようやくブラジャーをずらして(あくまで紐を解こうとはしない)乳房を取り出した。自分でもわかるくらいピンと張った乳首が見えて恥ずかしくて視線をそらした。もうすでに興奮した彼はそんな私などお構いなしに、おいしそうだと言わんばかりにピンと張った乳首をはむ、と口に含むと舌で転がしたり、ちゅう、と吸ったり丁寧に愛撫し始めた。下の方も忘れず最初は下着の上から、そして今度は下着をずらして一本つっぷりと中に差しいれる。そこまでくると流石に刺激が強くて声が漏れてしまう。

「……ん、音之進さん、」
「ああ」
「きもちよくて、だめ、」
「気持ち良うなるようしちょっど」

腹いせに彼の下半身のそれを強くこいてやればはっと声を漏らした。そして移動しよう、と言うか否か、私をそのまま子供のように抱いて支えると、軽々ひょいっと歩き出した。そのまま寝室へと移動しベッドに横たわらせた。そして自分は色っぽい手つきでシャツとズボン、そして下着を脱いでいく。それをぼうっとながめながら、すっかり形勢逆転されてしまったなあ、とぼんやり思った。彼のその様子を惚けた顔で見ていたら、彼と目が合った。

「風邪をひかんよう温めんなな」

そう言ってちょっと意地悪そうに笑って、それから覆いかぶさってきた。先程の自分の発言に少し恥ずかしく思ったけれど、もうどうにでもなあれと思って思い切り彼の首に抱き着いた。


2018.04.29.
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