短編 | ナノ
不眠症気味の尾形さんとねんねする

うっすらと瞼を開ければ薄暗い部屋の様子が見えた。電気のつけていない部屋では、ベッドの脇にあるランプの光の橙色だけが唯一光源となっていた。横を向けばまだ眠らずにいる男の姿が見えた。上半身を枕に凭れて起き上がった状態で熱心に分厚い本を読んでいた。本のタイトルは銀色の英字で書いてあったが、どういう意味なのか解らなかった。てかこの人本なんて読むタイプなのとそれにまず驚いて、それから笑いそうになる。時計を見れば夜中の2時を過ぎていた。ランプの光が男の頬や唇、額や隈を照らし、顔のあらゆる凹凸の影をはっきり映していた。男は私が起きているのに気付くと、視線を本からやっと反らした。

「起こしたか。」
「ううん。まだ寝ないの?」

欠伸混じりにそう言えば、尾形さんはフッと小さく笑って首を縦にふった。欠伸をした時に出た一粒の涙が頬を伝った。尾形さんはそれを親指で拭ってくれた。寝るときはぐうすか寝る癖にたまにこうして眠れない夜があるらしい。お酒の飲みすぎじゃないかだろうか。

「ちょっとでも寝ないと身体に悪いんだよ。」
「ああ。あと少し読んだら寝る。」
「昨日もそう言って結局朝まで起きてたじゃん。明日仕事でしょ?」
「ああ。」

そう言えば彼は壁掛けの時計をちらと見た。そしてもうこんな時間だったのかとでもいうように小さくため息を吐くと、パタンと本を閉じた。

「…そうだ、子守歌謳ってあげようか?」
「はあ?」

そういえば彼は目を細めて私をみた。そして「はっ」と馬鹿にしたように笑ったので思わずむっとしてくとをとがらせる。せっかく歌ってあげようと思ったのに。そう思っていれば彼はわしゃわしゃと私の髪を撫でつけてそれからふっと笑ってサイドテーブルのランプの光を消した。そして不躾に私が使っていた毛布の中にモゾモゾと入ってきた。さっきまで暖かかったブランケットの中に、冷たい手足が入ってきて、一瞬肩を震わせた。動く度にシーツが擦れる音が暗い部屋に響く。

「冷たい。」
「………………。」
「冷たい。」
「……………。」
「冷たいってば。」
「……………。」

私がしつこく言えば、尾形さんは閉じていた瞼をゆっくりと開けて少し機嫌悪そうに眉を潜めた。そして暫く私を見詰めた後、再びぎゅっと目を瞑ったかと思ったら、突然腕と足を回してきた。身体中ぎゅっと締め付けられて、少し息をしずらい。抵抗しようと身体をジタバタ動かしたら益々力が増していった。

「ねえ、痛いってば。」
「……………。」
「ねえ、」
「…お前は俺を起こしてえのか眠らせてえのかどっちなんだよ。」
「だって痛くするから。」
「それはお前が暴れるからだろ。いいからもう寝させてくれ。」

それからはパタリと口を開かなくなり、腕の力も無くなっていった。瞼を閉じて喋らなくなった彼をぼんやり見詰めた。そして起こさないように腕をそっと伸ばすと、ゆっくりと彼の背中に回してみた。尾形さんが愛用してるシャンプーの香りが鼻孔を掠めて心地よく感じる。回した腕に少し力を込めると、彼の閉じられた瞼に口付けた。


2018.03.05.
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