短編 | ナノ
引越ししようと思ったらエミヤに言いくるめられた(/sn)

「ふむ、引っ越しでもするのか名前。」
「あ、アーチャー。お早う。」

ぽちぽちスマホ画面をいじっていればいつの間にやら目の前に現れたらしい精悍な青年が目のまえにいて、ほぼ反射的にに挨拶を交わす。隣の席を向けばむすっとした目でアーチャーを見詰めて呆れたような表情を浮かべるツインテールの美少女こと凛ちゃんが士郎君と相席してアイスコーヒーを啜っていた。私と目が合うとすこしだけ笑って、いつもの、といったように遠い目をした。なんとなくすべてを察した私は色々言わなければならないことはあっただろうがそれも何だか面倒くさくて、よもやいそいそと勝手に目のまえの席に腰を下ろすこのムキムキイケメンを怒る気さえ起らなかった。というよりいつものこと過ぎてもはや起こっても無駄なんだということはこの喫茶店にいる人間であればだれもが周知の事であった。
休日の昼下がりの喫茶店は程よく人の入りがあり、微かにクラシックのBGMと人々の話し声が心地よい。先週の頭から読み始めた文庫本も読み終わり、生ぬるくなったミルクティーを一口飲みこむと、ふと、スマホで部屋を探し始めた。アーチャーが私に話しかけてきたのはそんな折である。


「女性の一人暮らしは何かと物入りな上に、あまりに危険じゃないか?」
「うーん、でもオートロックのついてるマンションなら平気だよ。荷物もそんなないし。」
「だが、オートロックを破られたらどうするつもりだ?」
「オートロックを突き破ってまで来てくれる人なら逆にちょっとお話してみたいよ。」
「君のジョークの大半は面白いと思っているがね、今のはあまり面白いジョークではないな。」

音を立てずに優雅にコーヒーを啜る彼は其れだけ言うと、彼は私のポッドに手を出して紅茶を注いでくれた。ポッドの中の紅茶は奇跡的にまだあたたかいようで少しだけ湯気がマグカップから上がる。

「名前、君はもう少し自分がか弱い女性であることを認識した方がいい。」
「うーん、そりゃあそうなんだけど、オートロックついてるだけでも大分心強いと思うんですけど…」
「足りないな。何かあったときにすぐに駆けつけて下手人を成敗し二度と同じ過ちをさせないように施す人手が必要だろう。場合によっては再起不能に………(ブツブツ)」
「うーんと、アルソックをつけろってこと?」
「それではお金がかかるし、流石にすぐには駆けつけてくれないだろう。」
「まあ、確かに。でもお父さんを連れてきちゃったら独り暮らしの意味がないし…」
「全くその通りだ。だが、不幸中の幸い、オートロックよりも安全かつアルソックやセコムよりも信頼性が高い私がいる限り心配はないだろう。」
「え、どゆこと?」
「私が一緒にいる限り安全は保障されているし、警備だけではなく家事炊事等に困ることもあるまい。アルソックやセコムよりは役には立つさ。で、いつ頃引っ越し予定なんだ?荷づくりの手伝いや積み荷の卸等段取りを決めよう。」
「うん、とりあえずナチュラルに進めようとしてるけど、君は凛ちゃん家のサーヴァントだったよね?ん?」
「心配はいらない。このようなこともあろうかと、先日から凛には話してあったんだが、暫く名前の護衛を任された。何かあれば心置きなく言ってくれたまえ。」
「まって、なんで勝手に話進んでるんだ。」

頭を抱えていればスッと横から現れた死んだ目を引きずった美少女が耳打ちをしてきた。

「(止めようとしたけど、無理だったのよ。色々あって私も当分衛宮君の家に厄介になることにしたから、どうせ家にはしばらく戻らないの。衛宮君とアーチャー色々あって相性悪いし、できれば当分の間離しておきたいのよ。)」
「(ええ〜、でも急に言われてもなあ…。あのお屋敷においてけばいいじゃない。)」
「(そうもいかないのよ。仮に家に置いておいても、どうせ勝手に名前ん家に行くわよ、あいつ。だったら最初から了承を得て一緒にいて貰たほうがいいわ。自分のサーヴァントが一般人にストーカーだなんて、考えただけでもなんかもうやりきれないもの。ねえ、お願いよ、名前。)」
「(う〜〜ん、、)」

まあ確かに英霊ともあろう彼が一般人の私に執着するのは異常にもほどがある。でも目のまえの美少女がこんなにも参っているのは非常に珍しいし凛ちゃんとの仲だ。しょうがないなあと思いつつも、ちらりと目の前を見やれば嬉々として(どこから持ってきたのか)フリーぺーパー賃貸情報雑誌を広げてああでもない、こうでもないとぺらぺら雑誌をめくるイケメンが見えた。其れを見やった後に今一度横の凛ちゃんに視線をよこせば目があった。いつもより疲れて濁ってる。

「………ごはんとか、作ってくれるなら(ボソッ)……」
「「決まりね!」だな。」
「………」
「………」
「……アーチャー、あんた全部聞いてたわね。」

凛ちゃんのその言葉に雑誌から視線をゆっくり挙げてアーチャーは私たちの方に視線を向けると妙にニヒルな、そしてどこか満足そうに口角を上げた。


2017.10.28.
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