短編 | ナノ

何かよく解らないけれど、最近隊長は私に優しくなった。きっとこの前二人きりで話し合って和解したからだ。とりあえずまた隊長と仲良くなれて本当に良かった。それにしても隊長は怒ったり優しくなったりといろいろと忙しい人だなあとつくづく思った。でもそんなところも、隊長の魅力の一つなんだと思うことにした。出会った頃は結構クールな人なんだと思ってたけど。

「……………。」

雲一つない真っ青な空が視界いっぱいに広がっていた。呼吸をする度に潮風の柔かな香りがした。私はまたいつものように親父のお膝元でのんびりしていた。甘えないようにと最近は努めているが、やっぱりこの場所は誰にも譲れない。暖かくて居心地が好くて、太陽と潮香りのする大きな親父の膝は私だけのものなのだ。

「……………た、隊長?」

ゴロゴロ寛いでいたら、突然脇から殺気にも近い異様な視線とオーラを感じ取ったので、目を開けて見てみれば尋常じゃない怒りの表情で私を凝視するエース隊長が見えて一瞬身震いした。ついさっきまで、朝ごはんを一緒に食べた時にはにこにこ満足そうに笑っていたのに、今はまるで感情が180度変わってしまったかのようだ。女心も秋の空なんていうけど正にそれみたいだ。乙女か。

「名前!ちょっと此方来い!」
「ええっ?ちょ、隊長!」

隊長は怒ったように吐き捨てると、私の腕を掴んで無理矢理起こすと何処へ行くのやらづかづかと歩き始めた。いつもは怒ってもすぐに一人で何処かに行ってしまうから安心はしていたが、今回みたいなのは初めてだったのでどうしてよいか分からず、私はただついていくしかなかった。というよりもこんなに怒りをむき出しにされるの初めてかもしれない。助けを求めようとして親父を見詰めたが親父は何故か怒るどころか何時も以上に機嫌良さげに笑って私を見ているだけだった。「乱暴すんじゃねえぞ」という親父の言葉にエース隊長は「するわけねえだろ!」とぷりぷり怒っていた。まわりいたクルーにも助けを求めたが、皆にんまり笑いながら冷やかすように「ひゅーひゅー!」とか「隊長頑張れー!」とか叫ぶだけで助けてはくれなかった。なにこれ、全員グルなの?これ。隊長は無言のまま私を振り回すだけ振り回した挙げ句、自室に私を連れてゆくと私を立たせた。そして一呼吸置いて久しぶりに口を開いてくれた。

「名前、お前鈍すぎんだよ!」
「はい?」

隊長は私の両手をがしりと掴むと、いつになく真剣そうな面持ちでそう言った。私は何の話しをしているのか解らなくて、思い当たる節を頭の中で、一生懸命に考えた。だがやはり怒られるようなことはしていないはずだ。隊長は見たことのないぐらい緊張した表情で、真っ直ぐ私を見据えた。初めてみるその表情に私は少し驚き、心臓が急に鼓動を強くした。そして、胸の辺りがきゅんとするような、変な気分になった。一体このもやもやするような気持ちは何だろうか。とりあえずどうして良いかわからず隊長を見ていた。体調のそばかす可愛いなとかどうでもいいことばかりが浮かぶ。暫くすると隊長はゆっくりとした口調でまた私に話し始めた。

「名前、俺は、お前のことが…」

『隊長いけー!』
『押し倒せばいいんすよ!』
『うわバカ野郎押すな!!』
『うわああああああああ』
ズガシャーーーーーーーン!

「っ、うるせええええっ!!!」
「おお、」


突然ドアが開いたと思ったら、雪崩のように野郎どもが隊長の部屋になだれ込んできた。みんなどこかワクワクしたような目つきで、明らかにのぞき見をしていたような風である。そして、何故か解らないけど、五月蝿い程の声援をエース隊長に送っていた。隊長は怒って私の手を一旦離すと、ずかずかとドアに向かっていった。隊長が向かうと同時に皆「キャー!」と言って逃げていった。野郎がキャーと叫んでも可愛くはないのである。しかしながら私はこの瞬間、何故かひどく虚しい気持ちになった。

「……………。」

エース隊長が怒りのままに野郎を蹴散らし燃やすその様子を黙ったまま見ていた。さっきまで隊長が握っていた手が、急に涼しくなって、酷く寂しく思った。もっと触れていて欲しいとさえ思ってしまったのだ。いやらしい意味でも、純粋な意味でも。ああ、そうか。私は恋をしていたのか。

・。

・。

「名前、好きだ。」
「私も隊長のことが好きです。」
「えっ!?」


2015.07.22.加筆.
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