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「エース隊長!4番隊からはもうすでに50人以上取れました!」
「おう。すまねえな少し休憩入れてくれ。」
「たいちょーう!聞いてくださいよ!1番隊のやつ全然書いてくれないんすよ!」
「あー、まあマルコの意を汲んでるんだろうな、仕方ねえ。もう少し粘ってくれ!」

目の前に積みげられていく紙に一喜一憂しながら、取り敢えず自分もいてもたってもいられずすれ違うクルー一人ひとりに声をかける。時にはこちらからどうしたと声をかけてくるものもいれば、俺たちを見た途端に幼児を思い出したと冷や汗を書きながら逃げていくものもいる(主に1番隊のやつ)。

「エース、何を企んでやがる?」
「イゾウか。」

あっきに満ちた雰囲気を感じ取ったらしく、わざわざこのように隊長自ら聞きに来るパターンもある。しかしながらあまりこういった隊長副隊長クラスはあまり同意を得られないパターンが多い。

「お前ェ本当に本気なんだな。」
「俺はいつだって本気だ。反対でも構わねえけど、邪魔はしないでくれ。」
「俺は他人の恋路を邪魔するほど野暮じゃあねえわな。協力もできねえけど。」

フフ、と笑ってそのキセルをくゆらせる。よくわからねえがイゾウはこういった経験は誰よりもありそうだと思った。もちろんこういった意見を述べるものもあれば、反対もいるわけだ。ビスタには「もう十分ではないか」だなんて諭されたし、ハルタにはなぜだか「何かいい恋愛映画を見てるみたいだ」という謎の感想を頂戴した。

マルコには、私用で隊の奴らを使うなと怒鳴られた。、ごもっともだと思う。やりたくなかったらいいとは最初からいってある。案の定、皆やめなかった。他にもいろいろ賛否両論あったが、とにかく今は時間が惜しい。この三日間、バカみたいに走ったり忙しかった。

「…皆すまねえ。」

ふと思わず二番隊のものの目の前でボヤけば、何言ってるんだと皆が俺を激励した。そういえばこの三日間、これに気を取られててこうめに会っていない。口では言わないだろうがもうそろそろあの寂しがり屋は泣いていないだろうか、そう思ったら心臓がいたんだ。あともう少しなんだ。出航前日には必ず隊長クラスが集合する決まりがある。その時が勝負だ。待ってくれ。







「エース。最近女のケツを追いかけてると思ったら、今度は熱心に何をやってやがんだ?」

目の前にずいと出て親父と対峙する。親父は言わずとも分かっているようで、しかし怒るでも笑うでもなく口元に弧を描きながら俺に問いかけた。

「親父、これを見てくれ。」

そう言って横にいるマルコに手渡す。ずいっとした重みにマルコは顔をしかめた。分厚い紙の層。合計592枚。俺を考えを受け入れると賛同してくれた人数の数。

「…信じらんねえ。」
「グラララララ。」

この間のようにマルコはこめかみを抑えるとため息を吐いた。親父はいつものように笑う。でも俺を見つめる眼差しの強さは変わらない。正直これを出したところでこの巨大な海賊船の長がよしと認めなければ全てが終わる。タイムリミットも差し迫っていたのでもうこれが本当の最後だった。これでダメなら受け入れる。そう決意している。

「正攻法だろ。」

そう言って帽子の隙間からマルコと目を合わせて笑えばますますマルコは深い溜息を吐いた。サッチから聞いた話だが、マルコは最近胃が痛いと漏らしているらしい。余計痛がらせることになりそうである。今度は親父を見る。

「親父、親父が女を乗せねえのはよくわかってる。でもどうしてもあいつをこっから連れ出してえんだ。」
「連れ出してどうするんだ、海賊ごっこでもやらせるってか?」
「違う。アイツは別に海賊にならねえ。……犯罪者嫌いらしいし。」

俺がそういえば後ろで見守っていたらしいサッチとイゾウが我慢できずに吹いた。でも今はかまってる暇はない。笑いたきゃ笑えばいいさ。

「おめえそんなにその女に惚れてんのか。」
「ああ。惚れてる。」

そういえば後ろから拍手と喝采、口笛が噴出する。「うるせえ黙れよい!」というマルコの制止によって徐々に収まっていく。親父は相変わらず俺をじっと見たまま目を離さない。オヤジも頑固だ。俺も頑固だ。水と油といった具合に一歩も引かない。

「その署名とやらは三分の一超えてるから無視はできねえがな、」
「…………。」
「まあ、そう焦るな。どうせお前一人で決めてこの三日間阿呆みてェに動いてたんだろ。その女には全部伝わってんのか。」
「………あ。」

俺がそう声を上げれば「えっ」みたいな謎の空気が漂い始める。

「そういえば…言ってなかった。」
「「「「ええー!!」」」」

「アホンダラ」

俺が素直にそう漏らせば皆が皆唖然とした表情で俺を見てきた。やべえ、すっかりその気になって署名を集めたがいいが、一番重要なことを忘れていた。出航はもう明日の早朝。

「(もう時間がねえ!)」
「あ、おい!エース!どこ行くんだよい!!」
「わりい!こうめに伝えに行く!あとは前向きに検討してくれ!親父頼む!」
「馬鹿言うんじゃねえよい!これじゃ結局無理矢理じゃねえか!」

残念だが構ってる暇はない。甲板に置いてあったコートを分捕ると、取り敢えず船から飛び降りるちひたすら走った。後ろから親父の笑い声がかすかに聞こえてくる。







「親父、どうするんだよい。」
「まあ、あのどうしようもねえ末っ子は連れてくるだろうなー」

俺の質問に答えたのはあのいやらしい笑顔を浮かべたリーゼントであった。きっと睨んで黙ってろと凄むも、ああ、怖い怖いとむしろこちらを煽るだけだ。

「…だいたいなんで4番隊の奴らは70人も署名してんだよい…」
「色恋には寛大なんだよ、うちの奴らは。」

ペラペラめくって署名を見てみればよく見たら隊ごとにまとめられている。なんでこういうところはりちぎなんだおかしいだろ。

「あのバカ息子は連れてきやがるだろうなァ。」
「親父!」
「まァ、マルコ、そうカッカすんじゃねえよ。俺ァは最近、管だの寝たきりだの、薬漬けで面白くねえ毎日を送ってたが、これを見てたらいい暇つぶしになった。」

そう言って我が偉大な船長であり海の父はその広い懐から何かを取り出すと、俺が持つ署名の上にぽんと乗せた。紙の束の上には見覚えのあるハードカバーの一冊の本。最近映画化されて、文庫本も出たという、恋愛純文学。タイトルは『融解』。

「こりゃァ…」
「俺もこの年になると、そろそろ孫の顔が見たくなる。」
「………ほ、本気かよい。」
「グラララララララ。さあな。」

女、じゃなくて、家族なら、増えてもいいだろう。そう言われているようで、胃がますます痛くなった。ほかのやつらに説明するこちらの身にもなって欲しいものである。


2015.11.05.


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