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「もう随分慣れただろう?」
「はい。もう夢のようですよ!あんな素敵な部屋に貧乏学生の私が住めるなんて!もう神様ドフィ様です!」

目の前のスーツでビシりと決めたチョイ悪おじさまことドフラミンゴさんのグラスにお酒を注ぎつつそういえば彼は満足そうに口角を上げた。相変わらず後ろでは取り巻きのお姉さんやお兄さん達がわいわいしているので本日もお店は大盛況である。

「なあに。俺は頑張ってる若い奴を応援してェだけだ。」
「あしながおじさん的な感じですね。」
「そこはお兄さんにしとけ。」

まあ確かにこの人精神年齢的にはまだ二十代前半だもんな、と納得しつつマキノさんの作った料理やフルーツをカウンターに並べる。どうでもいい話だがいいことを言っているのにドフラミンゴさんが言うとどことなく悪意を感じてしまうのは気のせいだろうか。ううん、いつもお世話になっているというのにあんまりか、と邪念を払う。
ドフラミンゴさんの隣にはセニョールピンク(スリムVer.)さんがいて、相変わらず彼の周りにはド派手なキャバ嬢並みのギャル達が金魚の糞よろしくついて回っている。彼は相変わらずそういう人たちを冷たくあしらっている。この人もイケイケな危ないオジサンを決めているが、ドフラミンゴさんよりも常識人であるらしく、妻子ある人で愛妻家で子煩悩らしい。因みにドフラミンゴさんについては結婚しているのかさえ知らない。というか聞いても適当にいつも流される。

「新生活にいい出会いはあったのか?」
「えー?出会いですかー?うーん、」

サラダの盛りつけをしておれば、セニョールピンクさんが不意に質問をしてきたため、思わず考え込む。出会い出会い、出会い……あ。あるじゃない。

「出会いっていうか、隣の人がすごいイケメンのお兄さんでした!」
「ほォ。どういう奴なんだ?」

今度はドフラミンゴさんが質問をする番である。どうやらこの話題は珍しく彼の興味を引いたらしい。普段なかなか他人に興味のわく人じゃないし、まさかガキんちょの浮かれた話に食いつくとは思わなかった。驚いたが、とりあえず聞かれたため答える。

「なんか、隈が濃くてー、目つきが鋭くてー、口はまあまあ悪いですね。あと声が低くてー、好青年っていいうかいわゆるジャ○ーズ系とは程遠いんですけど、すごいイケメンです!」
「…お前ェ、今の字面だけじゃ全然イケメンの要素なかったぞ。」

セニョールピンクさんの言葉にドフラミンゴさんは何故だかひいひい言いながら笑っている。そんなに面白かったかな。あ、でももうちょっといいところあるはずなんだが。私中性的な顔よりも「漢」!みたいな感じの人のが好きだから褒め言葉だと思っていたんだが。

「そんなことないですよ。背高いし、足長いし、背中広いし。スタイル超超いいんですよ!おしゃれだしー、いつもめっちゃいい匂いがするんですよー。あと医学生ですっごい秀才らしいです!」
「へェ。いい男じゃねえか。」

ドフラミンゴさんはそう言って一気にお酒を煽る。すかさずお酒を継ぎ足して、はい!と元気に返事を返した。

「そいつとは仲良くなったのか?」
「いいえ、流石にただの隣人ですから。……あ。でも、」
「…でも?なんだ?」
「もしかしたらなんですけど、今度お茶するかも、しれないです。」
「へェ楽しそうじゃねえか。」

ぐるぐると大きな手でグラスを弄ぶドフラミンゴさんはにたりと笑う。セニョールさんがタバコに火をつけたので、灰皿をおいてあげれば小さく礼を言われた。なんだろうな、私はやっぱりこういう感じの人嫌いじゃないんだよなー、ゴットファーザーとか全然好きなタイプなんだよなーとしみじみ思った。

「まだ私の予定がアレなんでわからないですけどね。」
「なんだよ、行ってりゃあいいじゃねえか。」
「えー?でも、なんだか恥ずかしくって。」
「イケメンならほかの女に取られる前に既成事実作っとかねえとなァ。」
「き、既成事実って……」

なんちゅうおっさんだ。やっぱ危ないおじさんだよこの人。嫌いじゃないけど!

「うーん。今日、後でメール送ってみようかなー」
「そうしてやりな。その“イケメン”も喜ぶだろうよォ」
「…はい!」



見ぬは極楽、知らぬは仏



昨日連絡待ってるって言われたし、と付け加えてえへへ、とはにかめば、ドフラミンゴさんとセニョールピンクさんは目を合わせてにたりと笑った、気がした。


執筆 2015.09.09.




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