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『で、先輩と仲良くなれたのか。』
『いや、なんていうか、それどころか多分、怒らせた。』
『……今度は何やったんだよ。』
『うーん、詳しくは言えないし説明できないけど、ちょっと気まずいことになっちゃったのよー。まあだいたい自分のせいなんだけど。』
『前途多難じゃねえか。ちゃんと謝れよ……』
『ちゃんと謝ったよ。』
『つーか日も浅いのによくここまでハチャメチャできるよな。』
『ケースバイケースなのよー。察して!』
『察せるか。まあ、詳しい話は明日聞くわ。』

バイト頑張れよ、というペンギンの声にはーいと返事を返すとラインを閉じ、バイトの制服に袖を通した。



躓く石も縁の端



「お気を付けてー」
「おやすみみかんちゃーん。」
「おやすみなさーい。」

タクシーのおじさんにお願いしますと一言言うと、最後のお客さんを載せたタクシーはブロロンと動き出す。手を振り、頭を下げ、タクシーが見えなくなるのを確認すると、ふう、と一息つくと伸びをする。closedと書かれた板を付け、店頭の街灯を消す。店側の窓のシャッターを締める。

「マキノさーん、看板降ろして電気消しましたー。」
「ありがとー。こっちはもうルフィくんと片付け終わってるから。あとは補充してもらってもいい?」
「はーい。」

奥に戻ると、お皿やグラスは全て洗われており、テーブルもメニュー等ももうきちんと磨かれ下げられていた。補充といってもカウンター下の冷凍庫や冷蔵庫に炭酸水やお酒を補充するだけである。ゴミはもうまとまってるしマキノさんは既に明日のお通しの仕込みに入っている。横を向けばルフィが今日の残り物の処理に忙しそうだった。今日のお通しはお肉だったからルフィも必死である。

「みかんの分もこっちにあんぞー。」
「まじでーサンキュー。」

テーブルの上にはタッパーの中にお肉の煮込みが入っていた。ルフィはお腹がすくのかその場で食べることが多い。しかも大概鍋のまま食べている。私の場合は明日のご飯にとマキノさんがタッパーに詰めてくれる。ひとり暮らしには大変ありがたい。

「もうやることおわったし、帰っちゃっていいわよ?二人共今日もありがとうね。」
「お疲れ様でーす。」
「今食い終わった!」
「鍋そこに置いといてね。ルフィ、みかんちゃん送ってあげてね。」
「おうっ」

お店は11時半に締まるので、帰りはだいたい後片付けで三十分はかかるので帰りは12時になる。遅くなる時はだいたいバイトが一緒の子と帰るようにマキノさんに言われているので、いつもルフィとかに送ってもらっているのが恒例であった。

「あ、あれだわ。私引っ越したからちょっと遠くなったのよ。」
「そうなのか。でもちゃんと送るぞ。」
「ううん。今日バイクできたんだ。ルフィ乗る?」
「お!いいのか?」
「うん。ルフィ駅前だよね。」
「おう助かったぜー。」
「多分今日からバイクだから、今度は私が贈る番だね。」

捕まってーといえばルフィは遠慮なく後ろに跨り私の腰に腕を回す。マキノさんからルフィの分のヘルメットを借りておいていたので、ルフィに麦わら帽子を首に掛けるよういいそれをかぶせると、エンジンを更かして夜の街へと走り出した。田舎だったので高校からはカブで通ったし、免許は早めに取得していたのだ。最近は全然使ってなかったけど、家から若干バイト先が遠くなったので、これからは多用することになるだろう。駅からはバイト先の方が近い。バイクなら信号に捕まらなければ五分もかからない。もともと二輪好きだし。

「西口の商店街近くの住宅街だよね?」

このルフィくんは新築の素敵なおうちにこりゃまたステキなお兄さん達と三人暮らしをしている。お兄さんは二人共社会人で大学のOBである。二人共優秀な方でかなりの高給取りな上にお店にもよく顔を出してくれる。

「ああ、でも今日はちょっと駅前のマル○ツに寄るから駅でいいぞ。明日の米買ってねえってエースからラインきた。」
「えっ駅のマル○ツまだ開いてんの?」
「二時まで開いてるぞ。」
「まじか。私も寄ろうかな。明日買い物行くのめんどいし。」

ちょうどバター切らしてたんだよねー、ということでルフィを送るがてら買い物に行くこととなった。

「荷物重いでしょ、この際ほんとに送るよ?」
「気にすんな。もうマジで歩いて五分だし米持ってっからあぶねえし。」
「確かに米10キロ袋三つはやばいな。」

ていうか明日の分米三十キロってなんだよ。ひとり十キロ食うのかこの家は。ルフィはそれを当たり前のように担いでいる。私は買ったバターやパン類をバイクのラックにしまう。駅前は流石に深夜を回っても賑やかで、人通りも多い。東口は居酒屋が多いが西口は商店街と住宅街が広がっている。人通りはおおい。

「大丈夫?」
「大丈夫だって!むしろみかんのが危ねえだろ。まあバイクなら逃げれるかもだけどな。」
「とりあえず気をつけるよ。」

周りを見れば、皆駅から来た人はこちらを見ていた。そりゃ三十キロのコメを背負う姿はなかなかシュールだからな。と思って人々を見ていれば、何となく見覚えのあるシルエットが見えた気がして目をこする。ヘルメット越しなのでちょっと俄かに見えにくい。

「あっ。とらお、とらおじゃねえか!」

私が気づくよりも前に、声を上げたのはルフィだった。ルフィの言う「とらお」はこちらにいやいやそうに近づくと、ルフィの姿を見て驚いたようなやや引いた様子を見せた。とらおって誰だよと突っ込もうとした瞬間、これまた聞き覚えのある声に思わず肩がびくりとはねた。

「…麦わら屋、なんでお前がここにっつうか、なんだよその…米?」
「おう!バイト終わったとこだ。米は明日の分!」

とらお久しぶりだなー最近顔見せねえんだもんなーとにししと笑いながらそう言うルフィを尻目に、私はまじまじとヘルメット越しに長身の男を見上げた。完全にローさんだ。なんだよ虎男て!と心の中で突っ込むにとどめる。彼とはあの一件から二三日顔を合わせていなかったので、別段何か悪いことをしたわけじゃないが微妙に気まずいと勝手に思っていたのでまさかのエンカウンターに打ちのめされていた。因みに彼は私がヘルメットをかぶっているので誰だか気づいていないらしく、私に構わずルフィと何やら言葉をかわし続けている。とりえず、これ、帰っていいかな。

「じゃあ、わたしそろそろ…(裏声)」
「あ、そうだな。わりい、帰りに引き止めちまって。つーか声どうした。」
「ううん、気にしないで…(裏声)」

コホンと咳払いをして謎の裏声を披露するとルフィに名前を呼ばれる前にとりあえずここを離れようとする。バイクにまたがり鍵を差そうとした瞬間、あ!とルフィが声を上げたので、思わず肩が震える。

「わりぃわりぃ、ヘルメット返すの忘れてた、。」
「ああ、ありがとう(裏声)」
「おう。じゃあな!みかん!!」
「声でか!!!!」

はっとして思わずぱっとローさんを見れば、彼はこちらを不審そうに向いていた。

「みかん……那津?」
「………こ、こんばんはー。」


観念したようにヘルメットを上げれば、彼は眉間にしわを寄せた。


執筆 2015.09.08.




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