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「あっ、えーと、東京バナ奈を4箱と、舟和の芋羊羹とあんこ玉が入った真ん中の箱を3箱ください。あと、芋羊羹だけの物を1つ、一番大きいやつを一箱お願いします。」
「…病み上がりなのにそんな大荷物大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!父が舟和の芋羊羹大好きで…。あ、あと、あそこのお土産屋さんによってもいいですか?マカロンを地元の友達に上げようかなと…。それと、友達に頼まれたデパコスの買い忘れがあって…、ちょっと歩くんですけど、伊〇丹にちょっと寄ってもいいですか…?」
「面倒くせぇ。こっから微妙に遠い。」
「うう〜、お願いしますよ〜う。皆田舎者なんで、デパコスが憧れなんですよ〜う。これM〇Cやジ〇ンシーやT〇EEだの、皆憧れなんですよ〜う。」
「…はあ、さっさと行くぞ。その荷物よこせ。病み上りのくせに傷が開いたらどうする気だ。」
「はあ〜い(優しい)。」

昨日退院したばかりだが、体の調子は頗る良い。今もたまに節々が痛むことはあるが、たいしたことはない。とはいえ、色々あったせいか時たま耳鳴りがひどかったり、眠れなかったりが続くのでローさんに相談したところ、このところ薬や点滴漬けだったこともあったので、漢方でも飲めと言われた。とはいえ、漢方など今まで馴染みのないてんで素人の私の事であるから、ローさんに教えてもらって漢方やさんに行くことになった。都内だと大なり小なり漢方専門店はあるけれど、色々都合がいいし近いしということで小〇急百貨店の漢方やさんに行くこととなった。ついでに、里帰りのためのお土産も新宿ならいくらでもお店があるし、好都合である。久々の外出だし、ローさんの気遣いで車を出してくれたこともあり、今日は大荷物でも家に持って帰れる。おまけに退院初のデートに当たるわけで(あくまでも本日のメインは漢方の購入であたったが)、喜びも一入である。ローさんも本日は久々、且つ正式な『恋人』となってからのお出かけなのでいつも以上に優しい気がする。いよいよ熊本への出立も間もなくとなり、本日は色々その準備に追われると同時に、ローさんと過ごす貴重な日になりそうだ。

「(これからももっとこういう恋人っぽいことちょこちょこできるといいなあ、あ、やだ、もう恋人だったッ★)」
「これはちゃんとドライアイスもらってきたのか?」
「あ、バウムには付けてもらいましたー」
「とりあえず冷凍物は車の中のクーラーボックスに入れて、それ以外も荷物入れとくぞ。動きにくくてしょうがねえからな。」
「すみません…えへ。あ、手伝います。」
「いい、先に乗っとけ。伊〇丹の駐車場の方が広いしとりあえずここ出るぞ。」
「はあい。」

言われたとおりに扉を開けてがちゃがちゃとシートベルトを締める。後ろではたくさんの紙袋を仕分けるイケメンがいそいそと作業をしており、私はそれをバックミラー越しににやにや見つめていた。先程から新宿駅の百貨店を歩いた際も感じていたが、やはりローさんは目立つ。あれだけ人がいるような場所であるのに、若い女性や店員さん、時にはデパ地下のおばちゃんまでちらちらとローさんを見ていた(逆にいえば、隣にいる私には目もくれていなかったが)。今一度感ずるが、やはり隣に立つのが光栄すぎるし、鼻高々だ。今でも本当に彼が私の恋人なのか、彼は私で本当にいいのか疑問に思うが、それでもやはり彼はわたしがそう時折吐露すると馬鹿かお前はという視線をよこしてぎゅっと抱きしめたり、手を握ってくれる当たり、間違いなく恋人と認めてくれているらしかった。イケメンからの数々のイケメン攻撃にいろいろな意味で自律神経がやられなくもないが、当分は漢方のおかげで何とかなりそうだ。

「ローさんは新宿良く来ます?」
「行かねえ。人口密度が高くて息苦しいから極力行かねえようにしてる。」
「さいですか…私はよく買い物にいくんですよね〜。…初めて東京に来た時。新宿に来た時にようやく、ああ、東京に来たなあって思ったんです。東京駅は乗り継ぎだったし、きちんと駅構内から出てぐるりと街を見渡せたのが新宿駅だったんです。まだバスタが建設途中で、相変わらずごちゃごちゃしてて空気も汚いけれど、ふと見上げたら星が見えなくて、高速道路や高層ビルの光が目に押し寄せてきて…」
「…まあ、見ごたえはあるな。」
「はい。だから、私が見た最初の東京は新宿だったんです。汚いけれど、夜景がきれいだなあって。すごく、鮮烈だったんです。」
「そうか、よっかたな。また来れて。」
「はい。ローさんと来れて、また素敵な思い出が増えました。」

そう言って右を向けばすこしだけ目を見開いたいイケメンと目が合った。イケメンはかちゃりとシートベルトを着けようとした手を止め、次の瞬間には口角を上げて私を見すえると、利き手を差し伸べた。また例の『形のいい頭』をなでてくれるのかと思わず反射的に額を差し出そうとしたがそれはその彼の大きな掌で阻止され、あごを触れられたかと思えば一瞬のうちに彼が顔を近づけたと認識したか否かのうちに唇が柔く触れて、それから離れたかと思えば何事もなかったかのようにローさんはかちゃりと自分のシートベルトを締めた。

「シートベルト絞めたか?」
「は、はい。…あの、そんな、ナチュラルにカッコイイことするのやめてくれません?…し、心臓が痛い…」
「今のもその『素敵な思い出』とやらに上書きしとけ。」
「ローさん、いつからそんなキザキャラに…ああ、今度は頭が痛い…」
「柴胡加竜骨牡蛎湯でも飲んどけ。」
「でも全然嫌じゃない、むしろもっとしてほしい★(もうやだローさん!ああ、助けて漢方!てか漢字が凄まじくて読めん!)」
「心の声と台詞が逆にってるぞ。」
「あ」





据え膳食わぬは男の恥





「…相変わらず人が多かったですね…さすが本店、恐るべし…ローさんは目当てのもの見つかりました?」
「地下でワインをいくつか買ってきた。」
「またお酒…(ボソッ)」

すきなだけチーズをかけてもいいというこのお店のルールに甘んじて山盛りのとろけたチーズをお皿の上にかける。外食なんて久々すぎて嬉しいのだが、病院食も悪くはなかったなあと思い出す。ローさんは何事もなかったかのようにパンを避けて私に寄せてくるがそれも慣れたもので私も何事もなかったかのようにパンを口に運んでいく。ローさんはパンは食べないけどステーキやパスタは平気で普通に咀嚼していく。昼間のデパート上階のレストランは恐ろしいほど混んでいたが、昔からこの店に通っていたらしいローさんを見つけたこのイタリアンの主任者がこっそりと先に通してくれたのだ。

「ローさんは小さいころからここに来てたんですか?」
「親がよく利用していた。都内にいた時は両親とも忙しくて週末はよく外食してたんだ。」
「でもその外食がは〇寿司とかサイ〇リヤじゃないあたりがリッチファミリーって感じですねえ〜。私なんか田舎に越してからは何にもなかったから、外食全然できませんでした。うらやましいな〜。」
「母親の手料理の方がいいだろう。こっちも美味いけどな。」

そう言ってローさんは表情を一つ変えず美しい姿勢を保ったまま肉を噛む。ウエイターがワインを継ごうとしたが、ローさんは片手をあげて車だと一言いうと、私の方に注ぐよう指示した。だが私も大丈夫ですと言って手を上げればウェイターのイケメンお兄さんは一礼してこなれた様に下がっていった。

「随分しおらしいな、別に気を遣う必要はねえよ。」
「いやあ、なんというか…」
「退院したら酒すきなだけ飲むって息巻いてただろうが。」
「ううん、まあそうなんですけど、まだ昼間だからいいです。それに、せっかくローさんと初デートなのに酔って記憶飛んじゃうのがもったいなくて…」
「………」

あはは、と笑いながらそういえばローさんはちらとこちらを見たが、少しだけ笑った後にミネラルウォーターの入ったグラスを口につけた。

「別に初じゃねえだろ。」
「それって、どういう…」
「コーヒー飲ませてやるって言って海に連れ出したことあったろ。」
「え。あれ。デートでよかったんですか…?」
「何今更なこと言ってやがる、お前だってペンギンたちにデートだって言いふらしてたんだろ。」
「あはは…(あいつら…許さんぞ)。て、てか、あれはやっぱり、その、デートでよろしかったんですよね…!?」
「それ以外に何があるってんだよ。」
「あああああ!」
「、急にでかい声だすんじゃねえ、」

隣の席の男女がいぶかしげな顔で此方に視線を向けたので、慌てて口を結ぶとごほんごほんと咳をする。ローさんは呆れた顔で私を見詰めてくるが、それ以上に今の私は混乱を隠しきれなかった。今しがたとても重要な事案が発生したのだ。正気を保つのがやっとである。

「すみません、でも、あの、それってつまり、あの時からローさんは私の事をその、そういう対象で見てくださってたってことですか!?」
「はあ?…そんなもん、考えりゃわかるだろ。」
「考えても分からないから聞いてるんですよ!私はあなたの医学生脳とは遠く及ばない苦学生なんですからっ。つまり、ローさんはその頃から私のことをす、好きだったってことですよね!?」
「好きっつうか、あの時は然程お前のことは知らなかったが、、そうだな、まあ、興味位は…」
「興味…ということは、その辺の女の子とは違って異性としての興味が、ということですよね…?」
「…公の場で話す内容じゃねェ。後で話す。」
「ダメです!私にとっては今この瞬間に聞きたいことなのです!死活問題なのです!」
「何だよ急に躍起になりやがって……だいたい、異性として興味もねえのに、デートになんか誘う男に、見えるのかよ。」
「!」
「コラさんにだって聞いてんだろ、色々。俺は今までどっかの馬鹿野郎や勉強で女と遊んでる暇なんか無かったんだ。これだけ言えば、お前のその苦学生脳でも、分かるだろ。」
「わかりません」
「お前なあ…」
「好き、だったんですね、そのころから私の事、気になってたんですね!」
「………好きに解釈しろ。もう俺は知らねえ。」

はあ、と溜息を吐いてローさんは柔らかいお肉を咀嚼していたが、私はそれを暫し呆然とそれを見ていたが、うれしさのあまり顔を崩さずにはいられなかった。今まで色々自信がなくて周りには冗談交じりにデートだの恋の始まりだの宣っていたが、まさかそれが本当だったとは…。

「………(呉に行った時も、ローさんは私のことを意識して…え、てことは、万が一にはその可能性があったのか……?だとしたら、ドフィさんにはあの時ありえないって私言っちゃったけど、ひょっとしたら、ひょっとしたんじゃ……!?)」
「肉冷めるかは早く食えよ。」
「あ、はい。」

もむもむと肉を心ここにあらずといった感じで飲み込みながら、目の前のイケメンを眺める。相変わらずクマの濃い不健康そうな男性だが、360度どっから見てもやっぱりイケメンである。天は二物を与えたか…としみじみ思いつつ、心の中でじわじわと一つの思考が私の中で肥大していくのっだった。

「……むっつり」
「あ?」
「いえ、なんでもありません…」

コラさんの言う通り、彼は筋金入りのむっつりなのかもしれない…?という疑惑が徐々に確信へと変わろうとしていた。とはいえ、いくらむっつりスケベだったとしても、目の前にこんな年頃の娘がいて一緒に眠ったらちょっと緊張位はしないのか!?いや、私じゃしないか、しゅん、っというのを何べんか頭の中で繰り返して、それから思わず今度は自分がため息を吐いた。

「肉固かったか?」
「いいえ、柔らかくておいしいんですが、お腹いっぱいで…(誰かさんの分のパンも食べたのでね…)」
「そうか。デザート食べれそうか?」
「食べます。」
「即答じゃねえか。」
「据え膳食わぬは女の恥、ですからねえ…」
「?そうか。」

じろりと視線をローさんに向けて意味深に口を開けば、彼はもちろん何のことかわからぬといったキョトンとした顔で私を見た。据え膳と認めていただくにはもう少し時間が掛かりそうだが、恋人になった手前、何としても精神的にも肉体的にも女性として認めて貰わねばと闘志に火が付いた瞬間であった。誤解してほしくはないが、貞操観念は人並みだと思うけど、恋人であるローさんとの間のスキンシップなのだから、そりゃ私にとってはベッド事情は重大な問題の一つである。ぱくぱくと出てきたジェラートをかみしめながら、絶対に手を思わず出したくなるような女になるんだと心の内で高らかに選手宣誓をするとくつくつとほくそ笑んだ。直後、お腹でも痛くなったのかとローさんには心配された。



2017.12.17.




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