13

「あ、ローさん。」
「…みかん、どっか行くのか。」
「学校に行こうと思いまして。」
「連絡しろって言ったろ。近所のコンビニやスーパーくらいは構わねえけど、家から随分離れる時は言えよ。」
「あ、すみません…。」
「送る。○○大学だろ?」
「駅までで十分ですよ?」
「どうせ俺の大学もすぐ近くだ、気にするな。」
「ありがとうございます…。」

あれ、なんかこれ、恋人っぽくね?



浮竹の川



夏休みだってのに補講とかなー。」
「まあ一日だけだし、必修だししゃあない。」
「てかみかん夏休み実家帰るのか?」
「多分一週間は帰るかも。バイトないタイミングにね。でも当分はまだかな。」
「じゃあ合宿とかは出んのか。」
「うん。」
「ああー海行こうぜ、海!水着!ボイン!」


きゃーきゃーはしゃぐ二人をよそに私は珍しく携帯もいじらず物思いにふけっていた。


『俺は試験で三時には上がる。もし時間が合うならついでだから帰りも送る。このことはあんまり他人には言わないほうがいい。いいな。』
『…はあ。』


一応ローさんと親交のあるこの二人にも言ってはダメなのだろうか。というよりもいい加減こいつらと友達なの言わなきゃと思ってたのにタイミングをまんまと失ったせいか全然話せていなかった。どうやらこいつらも話していないらしく、つい最近ローさんと三人で飲んだと聞いたが全然私のことが話題に登っていない。どうせこの二人のことだから話すの忘れてガブガブいつもの調子でいたんだろう、想像に難くない。

「つうか今日暇なら普通にボックスにいるメンツ連れて夏休み祝いの飲みに行こーぜ。みかんもペンギンもバイトないだろ。」
「うん。でも今日別の用事あんだよねー。」
「なんだよつまんね。」
「つうかあんたら飲めるなら理由なんてなんだっていいしいつだっていいんでしょ?」
「まあなー。」

ぶーぶーいうシャチの横でペンギンが訝しげに私を覗いた。横目で目があったので思わず首をかしげる。

「なあ、何かあったのか?」
「えっ」

そういえばペンギンはこういう時に鋭い洞察力を時たま発揮することを忘れていた。コイツ以外と空気読むし、まあシャチも空気読むけどペンギンほどではない。ああ、どうしようかな、と思案する。嘘は通用しないかな。辺りを見回して適当に空いていた教室に二人の腕を引いて引き込んだ。

「あの、実はさ……」







「じゃあ、つまりその監視の目はお前を狙ってるってことか?」
「目的はよくわからないんだけどそうらしいの。兎に角まあ今は大丈夫とかローさんは言ってたけど…。」

そういえば顔合わせに座っていた二人がうーんと各々唸る。まあ、正直本人もよくわからぬのだから聞いた人は余計謎だろう。しかしながら存外二人はこの状況に関してすんなり受け入れてくれたらしく、兎に角監視の目が本当にあることは信じてくれたらしい。

「ていうか、ローさんあとなんか言ってたか?」
「あとは…特には。兎に角足取りはちゃんと教えろってくらい。」
「前にもあったって言ってたんだよな?」
「うん。前の話は聞いてないけど……」

私がそういえば二人は黙ったまんま目を合わせた。そして何やら心当たりがあるのかため息を吐いた。シャチが飲んでいたアイスコーヒーのストローを噛みながら口を開いた。

「前にさ、あの人が高校の時にちょっとグレてたって話ししたの覚えてるか?」
「前……あーあ、ひと月以上前くらいの?」
「そーそー。」
「それがな、グレてた原因の一つがそれなんだ。」
「それって?」
「知り合いのおっさんにちょっかい出されてたって話したろ?覚えてねえか?そのおっさん関係の人に執拗に追い掛け回されてた時代があんだよ。」
「まあ追い掛け回されただけじゃなかったけどな。」

あん時は本当に大変だったよなー、とふたりで心底げんなりした態度を見せる。そういえばだいぶ前にそんな話を聞いたきがする。橙色の西日が電気をつけないでいる教室を染めていく。四時間目の終わりえお告げるチャイムが間遠に聞こえた。

「でもあん時はローさんも俺たちもガキだったしどうすることもできなくてさ、すげえやばかったんだけど、そのおっさんの弟さんが一肌脱いで全てなんとか丸く収めてくれたから良かったんだけど…」
「またちょっかい出し始めたのかあのおっさん……。」
「あのさ、そのちょっかい出してきたおっさんって……」

その刹那、ブルルルルとテーブルの上にあった私のスマホが震えだしたので三人一用にテーブルに視線を送る。画面には見慣れた文字の羅列。反射的にそれを手に取ると通話ボタンを押す。

『も、もしもし、』
『補講、終わったか。』
『はい、今ちょっと友達と喋ってて、』
『俺ももう試験が終わったところだ。このあと用事あるのか?』
『あ、でももう出ます。』
『別にこのあとどっか遊びに行くなら遠慮すんな。俺は保護者じゃねえんだ、ついでに送ってくだけだ。』
『ああ、いいえ。今日はまっすぐ帰ります。』

そう伝えればローさんはならあと十分くらいで西門に行くと手短に伝えて携帯を切った。その通話の様子を二人は四十無言で見守っていたが、私が電話を切るのを見ると安堵したようなしないような微妙な表情をした。

「とりあえず、心配すんな。あの人が心配すんなといえばまだ大丈夫だ。」
「うーん……」
「あん時はガキだったけど、もうあの人もいい歳だし、俺たちもガキじゃねえしな!何かあったら何とかするって。」
「うん。とりあえずそんな感じだから、今日のとこはおとなしく帰るね。あ、でも飲み会とか遊びには普通に行けるから誘ってよ。」
「当たり前だろ。あ、あととりあえず何かあってもなくても俺たちにも言えよ。」
「変なストーカーぶっとばすくらいなら俺たちもできるし。」
「うん、ありがとうね。じゃあ西門に行くわ。」
「おう。」

そう言って足早に教室を出ると、エントランス付近で二人と別れた。とりあえずなんとか大丈夫なんだかダメなのか未だにわからないが、協力者がいるのは大変心安いことだと心底思った。







「それにしても、まさかこんなことになるとはなー。」
「まあ、正直あのマンションに越したところから何か違和感はあったけどな。」
「とはいえ今回はさすがに大丈夫だろ。俺たちもうガキじゃねえし、ローさんも今回は以前のあれがあるからすげえ慎重になってるみたいだし。」
「そのうち俺たちにも連絡くんのかなー。」
「きそうだよな。あ、そんときにでも俺たちとみかんのこと話さねえとだよな。」
「あ、そういえば。すっかり忘れてたぜ。」
「つうかあのおっさんも本当にしつこいっつうか、」
「まじでローさんのこと好きすぎだろ。」
「あの時以来全然顔なんて見てなかったな。」
「つうか顔を見るどころか、出来る限り関わりたくねえよ。あの、

「「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」」

……にはな。」


執筆 2015.10.13.




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