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「わーい!私明日ローさんとデートー!!」
「……嘘つくなよ。」
「嘘じゃねえよ!」
「じゃあ妄想か?」
「妄想じゃねえよ!」
「………虚言癖か?」
「ぶっころすぞ!!」

私の言葉にペンギンとシャチは顔を見合わすとにわかに信じ難いという風に首をひねる。こいつらほんとに信じてないな!といらだちを募らせていちごみるくをめいいっぱい吸って呑む。

「てゆうかさ、あんたらと私が友達なことローさんに話してないの?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったな。」
「なんでさ、」
「それはこっちの台詞でもあるんだけどな。」

シャチが同じくいちごみるくを飲みながらいうので、思わず私も、ああ、そういえばと思い出す。私から言うこともできたのか。でも急に私からあの二人とは友達なんですよーなんて言ったって「フーン」で終わるだろうし、最悪の場合なんかかんかでストーカー扱いされたら溜まったもんじゃない。そういえばペンギンはまあたしかに、と言ってコーヒー牛乳を飲んだ。今日はいい日和なのでビルの屋上でのお昼である。ビル郡の隙間から幽かに峯が見えるくらい今日は空気が澄んでいるらしい。どこからかブラスバンドの音も聞こえる。それぞれコンビニで買ってきたものやお弁当を持ち寄って、日陰があるが心地の良いスペースに寝転がる。流石に高い授業料を取るだけあってうちの大学は施設はかなり充実しており、たまにテレビでも紹介されるほどである。屋上にはなんとかガーデンとか言って緑が植えてありちょっとした公園のような小休止の憩いの場となっているのでここでお昼や日向ぼっこを楽しむ学生も多い。家で作ってきたBLTサンドを噛み締めながら、向こう側に見えるスカイツイりーをぼんやり見ていた。

「てか案外トントン拍子で行くもんだよなー。」
「たしかに。俺は正直何もなく終わるもんだと思ってたぞ。」

横でシャチとペンギンが言いたい放題言っているが、特に気にせずサンドイッチを頬張る。

「まあ私が可愛いからなー?」
「その自惚れが破滅を呼ぶぞ。」

いつもならうるせえだのなんだのと言い返すところだが、今日はあえて余裕を見せておく。いい女はそんなことぐらいで怒らないのよ、ふっふっふっ。そういえば完全に調子に乗ってるなと二人にため息を吐かれた。なんだか腑に落ちないぞその態度。

「数日前まで『怒らせたから終わったかもー』て落ち込んでたくせによ。いい気な奴だぜ。」
「私は過去は振り返らない女なんでね…。」
「ウゼー。なんだよそのキャラ。」
「すっかり調子に乗ってんな。」

はっはっはっとたからかに笑い、包み紙を丸めて伸びをする。今日は本当にいい日和だ。明日も晴れで、そのあさっても晴れだと天気予報のお姉さんが行っていたからバッチリである。天も我に味方したか…。

「本当に調子いいよなお前。先輩とのデートじゃあんまり調子のんなよ。まあデートっつうかコーヒーに飲みに行くだけだろうけどな。」
「デートだもーん。喫茶店で男女がお茶するのは立派なデートだもーん。」
「単純だなー。」

紙パックのいちごみるくを飲み干すと、傍にあったくずかご入れにシュートを決める。見事入り思わずガッツポーズを披露すればシャチが「スリーポイント!」と宣った。直後、十数歩先に女の子グループがきたかと思えばナミとビビ達だったので、手を振る。こちらに気がついたらしく、キラキラした集団はこちらにゆっくり近づいてきた。

「ま、君たちも早く青春したまえよ……。」
「さんせーい!」

私の言葉にシャチは元気良くそう言うとだらしなかった姿勢を正し、身の回りを布にし始めた。斯く言うペンギンも気がつけばだらしなく壁にもたれていたのが背筋をピンと伸ばしてしゃんとしている。お前らだって十分単純じゃねえか、という言葉は野暮なので口にはしなかった。とりあえず私は私で明日の準備で頭がいっぱいあったのである。

「(ローさんどんな服が好きなのかなー。)」








【翌日、昼過ぎ】


「あああ!デートなんて本当にいつぶりだろう。一年ぶりぐらいだ。最近合コンにもいかなかったし、前の彼氏と分かれて一年ぐらい経つし、デートとか、デートとか!」

何服着ればいいかわからないし。どうすればいいんだ。気合入れた服着たら何だコイツと思われるかもしれないし、かと言って普通の服着てったらそんなに意識してないみたいで失礼な感じするし、あああああああ!コーヒー飲みに行くだけなのに!

「(何なんだ、この少女漫画展開は……!)」
「どうした、顔青いぞ。」
「え、」
「腹痛いのか?」
「いいえ、ていうか完全に腹痛キャラ定着してませんか?」

私は健常なので山根くんとは違いますよ、という言葉は飲み込む。というか今普通に会話したけどいつからローさんいたんだっけと思ったがあまりの緊張でいつから二人でいたか思い出せない。気がついたらエレベーターに乗っていて、地下に向かっていた。緊張、恐るべし……。大学受験より緊張していて我ながら恥ずかしい。

結局無難にブラウスにカーディガン、キュロットスカートにブーツというまあ若い子らしいファッションに身を包んだ。化粧も珍しくファッション誌を見てやったし、前日にはあたらしいグロスを買って早速つけた。ちょっと気づいて欲しいような気づいて欲しくないような。ああ、そういえば高校の時に初めて付き合った彼氏の初デートの時もこんな感じだったんだなあ、と思い出す。ローさんはとりあえず地下に着くとポケットから例の白熊さんの鍵を取り出す。車かしらと思ったら、彼の車の前を通り過ぎ、二輪の駐輪場に歩いて行った。

「二輪の方が好きだろ。」
「え、あ、はい。バイク結構好きです。……でもなんで知ってるんですか…?」
「この間もそうだが、一昨日地下で二輪弄ってるの見たからな。結構慣れた手つきだったから好きなんだと思ったんだ。」

そういえば一昨日の午後に掃除がてらメンテナンスしてたなあ、と思い出す。多分その時車に乗り込むかなんかしてた彼に見られていたのだろう。やばいな、どこで見られてるかわからないから今度から気を付けよう、と思った。バイクいじってる時の私の顔は愉悦に浸ってバカっぽくなってるはずだから。バイクも好きだし、灯油やオイルのアノ匂いも実は好きなんだよなー。

「俺も最近車ばっか乗ってるが結構二輪も好きでな。」
「あ、やっぱり!通りでこの間の帰りの運転すごい上手だと思いました!」
「そうか?休みがあればよく仲間連れて高速乗ってどっか行くんだけどな。」
「私もよくツーリング行きますよ!ひとりでも友達とでも!」
「ほお。……時間あんならその辺走るか?」
「えっ、…いいんですか?」
「時間ねえなら無理しな、「あります有り余るほどあります。」…即答だな。」


私が即答すれば、彼はじゃあ行ってみるか、と笑ってバイクのカバーを華麗に取り外した。ローさんのイケメンさ加減にめまいを覚えつつも、まさか今日は普通に再びタンデム(二人乗り)出来るなんて思わなかった…と感極まっていた。調子に乗ってロングスカートやミニスカにしなくて本当に良かった。キュロット先輩ありがとうございます。

「わ!なんてメカメカしいこの車体……!ま、まさか!」
「ああ。カル○ルニア1400カスタム。最近使ってなかったけどな。一応メンテナンスはしてたから心配すんな。」
「いいえ、心配なんて。ていうかさらりとこの代物を出すとは…。アメリカンバイク、私にはまぶしすぎる存在…」

さらりと二百万クラスのアメリカンバイクを出すとは、恐るべし、サラブレッド…。思わず素手で触るのさえためらわれるが、思わず近づいてため息が出てしまうほどだ。

「(おまけに純正のリキャリア【座席の後ろにつけるやつ。】にトップボックス【荷物入れ。ヘルメットとか入る】までついてやがる……!おまけにトップボックスにはクッション付いてて、タンデムに最適じゃねえかああああ!)」

「これ被れ。」
「はーい!喜んで!」
「お前面白いな。」

手渡されたヘルメットをためらいなく被り、手渡されたジャケットにも袖を通す。大きめだけど彼シャツみたいでニヤニヤが止まらずヘルメットに感謝しつつ、荷物を収納する。ローさんが座ると、私もあとに続いてまたがる。ああ、いいなあアメリカンバイク。やっぱかっこいいわ。

「乗り心地が私のヤマハと全然違う…。」
「あれはあれですっきりしてていいじゃねえか。」
「そうですかね。まあ気に入ってるんですけどね。」
「ああ。よし、寒くなったら言えよ。結構飛ばすぞこれ。」
「大丈夫です!ジャケット借りちゃったし…それに、風を切る時のツーン、と寒い感じがむしろ好きなんです!」

そういった直後ぶおおおん、とエンジンが吹かされる。何を言われずとも自分から腕を回すこの感じに照れつつ腕に力を込めた。ああ、これほどまでにバイクオタクでよかったと思った日はないな、とぼんやり思ってワクワクした。テンション上がりまくりの私にローさんはくつくつ喉を鳴らした。

「風邪ひくなよ。」



触らば落ちん風情



もうコーヒーなんてどうでもいいから、しばらくローさんとタンデムしてたいです、まる。


執筆 2015.09.08.




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