Nightmare blue


episode 01 - サテライト










正直に言おう。いや、俺はいつだって、正直者だ。お前だってそれはよく知ってるだろう。クロウ様の正直さと誠実さは。
改まって言うのもなんだが、まぁ、洒落た言葉なんて柄でもないし、思い浮かんでいるわけでもないし、ここはストレートに行く。
――好きだ。大好きだ。きっつい物言いも、危なっかしいとこも、無防備なとこも、意地っ張りなとこも、寂しがり屋なとこも、全部含めて、可愛いよ。


「そりゃ、どうも」


なんてリアクションの薄さだ。最新の薄型テレビよりも、薄いぜ、そのリアクション。笑えねぇよ。
海岸沿いをぶらぶら散歩がてらに人生初の告白とやらをしてみたが、遥相手じゃあ、意味が無い。
漸く、遥か海の向こう側のシティから、視線を逸らし、面白くもなさそうに顰められた顔が俺へと、向けられた。
ちょっと、違うんだよな。…こんな顔が見たかったわけじゃない。


他愛も無い事を話している最中、不意にシティを見つめ、透けそうな遥を見ていたら、ついうっかり…口が滑った?
ベラベラと…まるで、あいつみたいに。俺はあいつのようなお喋りじゃないはずなのにな。
言ってしまった事に後悔は無い。機会があれば言おうとは前々から、思っていたが、その矢先に――
(真っ赤な目をした遥と、何も言わない遊星の切ない眼差し)





もう一年、か。あいつが行っちまって。今ではテレビで見ない日が無いくらいだ。





「違うだろ。遥、そこは「あたしも好きよ」とか、「嬉しい、ありがとう」だろうが」


「ゲェ!何それ、あたしの真似のつもり?全然似てない」


俺がこれでもかってくらいの高い声を出すと、女の子らしからぬ声を出して、遥は一歩引いた。
うわ、ひっでぇな…流石の俺も今のはちょっと、凹んだせ。でも、このくらいはまだまだ可愛い方、マシな方だ。
遥には自分への異性からの好意ってものがまるで見えてもいなし、感じてもいない。
遊星の事だって、一つ屋根の下で暮らしているのにも関わらず、ただの結構良い奴としか、思われていないんだぜ、きっと。
普通、一年も何とも思っていない女と一緒に暮らす訳ないだろうが!鈍感ってレベルの話じゃないわな。





だけども、ジャックの事は一年経った今でも、引き摺っているらしい。





あいつも遥を可愛がっていたし。だから、あいつがシティへ行ったと聞いた時、最初はただ、驚いた。
何故、遥を連れて行かなかったんだろうと。それに関しては遊星と遥も未だ口を噤んでいる。


多分、きっと、あいつとの最後の会話は遊星にも言ってないんだろうな、遥。
自分の胸にしまって置きたいのか、それとも、言えない様な事をされたのか…なーんて、な。





「俺の貴重な裏声の声真似を似てないっつたのはこの口かぁー?」


「いひゃいいひゃいてゃばぁ!クゥ、クリョウウウウ!」


「はは、どうだ。参ったか」


遥の両頬を両手で摘んで揉むと、怒ったように喚くが構わない。こうして、じゃれあっているのが堪らなく、楽しい。





「ばーか。好きだぜ、遥」


貶しているのか、好きなのか、分からない。そんな顔をする遥に、


「どっちもだって」


嘘や、冗談だと、思っているなら、それでもいい。好きになってもらおうなんて元から、思っちゃいない。期待もしちゃいない。
ただ、ただ――遠からず、近からずの距離でいつも、遥が俺以外の特別な誰かに怒っていたり、笑っていれば、それでいい。


俺じゃあ…どうしたって、お前の特別になれそうにないし。





君が幸せなら、それでいいよ
(俺ってなんていい人)(全く、いい人過ぎて泣けてくる)


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