還ろう、きみの元へ

003

 好奇心旺盛すぎる翔琉は、不満げに口をとがらせた。女子生徒からかわいいという声がちらほら漏れてくる。彼は、猫に似たアーモンド型の眼にくるくるとよく変わる表情で、女性に可愛がられることが多い。男子生徒たちは揃って苦笑いを浮かべていた。
話が途切れたとともに、タイミングよくチャイムの音が響く。それを合図に周囲の生徒たちはそれぞれ話をしながら席へ戻った。

「なぁなぁ、さっき何見てたんだよ」
「別にいいだろ」

 前後の席へ収まるクラスメイトたちを尻目に翔琉は邪魔にならなさそうな場所に立って梓に話しかける。好奇心旺盛な友人は、梓から何か面白い話題でも引き出せそうと考えていたのか、目をキラキラさせていた。

「…男の子。今朝、見かけたちっちゃい子が着物着てたのを思い出しただけ」

 このくらいの。そう続けて梓は、翔琉の腰にも満たない高さに手を掲げる。祭りでもないのに着物を着ている子供の話に、翔琉は途端に興味をなくした。今では珍しくなったものだが、どうやら登校コースの家の中に旧家があるようで着物を着た子供を何回か見かけていたらしい。そして、その家が呉服屋を営み自宅を店舗として商いをしているので、そう珍しいものではない。そこまで言って翔琉はつまらないと机に顔を伏せた。

「…なんでそんなこと知ってるんだお前」
「噂の真相って気になるだろ?」
「それを実地で調べてくるお前の根性はある意味尊敬する」

 照れるなぁ、とテンプレの台詞を言った翔琉を手で追い払う。彼が自身の席に収まると担任教師が本日のホームルームについて話し始めていた。
 彼らが立ち去った誰もいないはずの場所。黒板の下では、子供が変わらずに立っている。
 ぼうとした表情の灰色の髪を無造作に伸ばした子供。沈むように海の底のような暗い目が下を向いた。その子供の腕の中には、血にまみれた男の顔があった。濃い眉の下には半分飛び出たような目玉が四方へ視線を散らし、片方の頬は無残にも引きちぎられて歯が見えていた。だらだらと血が落ちていく影になって顎に古傷がある、三十歳は過ぎたであろう男の生首。
 ごくりと生唾を飲み込む。先ほどまで何も持っていなかったはずなのに。
 高校の教室に幼い子供というだけでも軽く騒ぎになるというのに、小さな子が血まみれの生首を持っている。そんな光景を、周囲の同級生は騒ぐどころか子供の方を見ても視線が通り過ぎるだけで何かを口にする気配もない。
 ふと、子供と目があった。灰色の隙間から見える、白い白い目。ぬらりとした光がぐるぐるぐるぐる、回り始める。波が、白い波が渦巻いている。飲み込もうと牙を剥く。

 ――アイシテアゲルワ

「ッひ…」

 がたん。
 鈍い音が響いた。逆代、どうしたんだと軽い声が届いて、梓は周りを見回した。教室中の視線が唐突に立ち上がった梓に向けられている。

「なんでも、ありません…」

 再度見た黒板の下には、いつもと同じように緑色の機械が置かれた机だけだった。
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