還ろう、きみの元へ

001

 深い森の中、幾つもの影が移動する。草を揺らし、枝を払いのけながら進んだ先にぽっかり空いた空間。自然にできたのか広場のような場所で、人影は立ち止まった。
赤くも見える黒髪に森の木立に溶け込むような地味な配色のラフな格好の青年。両手にはオートマチックの拳銃が握り締められ、周囲を油断なく見回す。
藪が動いた。それと同時に青年はそれに向かって引き金を引く。

「ギャインッ」

 大きな悲鳴をあげて青年に飛びかかってきた影が勢いをなくして落ちた。大きなものが地面に叩きつけられ、地響きを伴う重低音が体を貫く。
 それは、大きささえ通常のものなら普通の狼と同じだったろう。青みがかった黒灰色の狼は、だらんとしたまま動かない。青年は、引き金に指を残したまま、獣に近付く。
 獣の肩に赤い羽根がちらりと確認できて初めて力を抜いた。念のために、一方の銃を残しもう片方を腰につったホルスターに仕舞う。その空いた手で耳元からのびたマイクの操作をした。

「こちら、1番。獣を捕獲。麻酔弾で眠らせた。檻を持って…」

 青年が目を離した一瞬だった。途中で途切れた言葉に不審を抱いた通話相手の心配する声が耳に響く。銃をしまうために別の方向を見た。数秒程度だろうその所作の間に、ものが消えるといったことはあるだろうか。それも、人よりも大きな獣である。なんの音も気配もせずに消え失せ、そして。その代わりに10歳を過ぎたばかりだろう少年が倒れていた。
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