還ろう、きみの元へ

007

「猫耳…?」

 青みがかった黒髪に生えた三角の耳。ぴんと立ったそれはしなやかな立ち居振る舞いの身近な動物を思い出させる人間にはあり得ない形。つい、本来の場所を見れば髪の毛に埋もれて見えなくなっていた。

「うおっしゃ、獲ったァアアッ!!」

 さらに覗きこもうとしたとき、荒い足音が響き渡り、部屋のすぐそばで怒声が二人の耳を劈いた。入ってきたのは、金髪の少女。僧侶のような格好をしているにも関わらず大股で歩いてきて、倒れこむ猫耳付きの人に軽く足を乗せて悪役よろしく高笑いをあげる。

「この麗華様から逃げようったってそうはいかないわよ!」

 唖然としていた二人に気付かずに笑う彼女は、実に楽しそうだ。ふと何かが手に当って、視線を下ろす。手元には少女の身長よりもずっと長い棒。先端に金属製の輪がいくつも取り付けられ、動かせばしゃらしゃらと涼やかな音を響かせる。もしかして、これを少年に当てたのだろうか。

「あらぁ…あんたたち、お客? めぐり屋は今忙しいから今度にしてちょうだいな」

 言いながら足元に転がした少年の体を抱えようと手を伸ばす。かなりぞんざいな扱いに、この少女の性格が見えた。梓も金太郎も分からない単語がポンポン飛び出してきて声をかけようにも何から話せばいいのかさっぱりだ。

「あーっ! もう、もう…なにしてるんですか、麗華ちゃん! ここは人様のお家で、相手は人間なんですよ」

 少女の後ろからまたしても新しい声が聞こえてくる。麗華と呼ばれた少女は、構うことなく屈みこんで少年をつっつきながら答えた。

「どう見ても人間っていうか妖怪に近いわよ。…それより、あんたこそそれを人間に見せていいのかしら」

 従兄弟の家はいつから人外魔境になっていたのだろう。今度の人影は、王冠のように曲がった鹿の角のようなものが生えていた。

 ただ、担任から頼まれたプリントを届けに来ただけだというのに、何がどうしてこうなっているのだろう。梓はぼんやりしながら会ってすぐに気絶してしまった少年の顔を見るともなしに眺める。
 通った鼻筋に薄い唇、均整のとれた配置でパーツが納められている。いわゆる、異性が騒ぐ顔立ちの良さだった。男にしては細身だが、十代前半という年齢を考えると適当な大きさだろう。青みがかった髪の上に立つ三角の耳がかなり異様ということ以外は、見目のいい人間である。ただ、三角の耳に驚きすぎて気づかなかったが、人間というには少しおかしいものは、他にもあった。手足の爪がかなり鋭利に尖っていて明らかに人間というよりも獣に近い。今は布団の下に隠れてしまっているものの、彼の腰には犬のような尻尾も生えていた。第一印象で猫耳と思い込んでいたが、もしかすると耳の方も犬のものかもしれない。
 錫杖を投げられて気絶した彼は、一体誰だろうか。見覚えのない顔と通常ならありえない特徴を持っている彼なら、一目見たら忘れそうにもない。
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