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012
何度も何度も、装丁を辿っていく。専門の業者の間でもあまり出回っていない部類の本である点字本は、多くの読者が望まない限り、点訳されることはない。個人の要望で訳してもらおうと思えば、相当のお金を積む必要があった。梓が言っていたタイトルは、ベストセラーではない。おそらく、これは誰かが打ってくれたものなのだ。
「しーちゃんさ、実は点字打てるんだって。もちろん、俺も打ったよー」
地味に疲れるねー。のんびりした口調で述べられるそれは、光が驚いていることに対して強く喜びの色をのせていた。
「陽一、ありがと…」
「どういたしまして」
光がひそかに気になっていた立派な装丁について聞けば、ヴィレッドヴァンダードという雑貨屋に置いてあった日記帳を使ったのだという。志藤と二人で、滅多に使わない外出届を使い、町に出向き、そこで見つけた場所。所せましと客の目を楽しませる装飾や商品が並べられ、彼ら二人にとても大きな衝撃を与えたと聞いた。
「でも、わざわざ悪いな…。誕生日でもないのに」
「いーよ。しーちゃんとのデートだったから」
「え」
あらやだ、お口のチャックが…などと言った池田の声がこもる。口を手でふさいだようなそれは、零れてしまった今では意味がなかった。
「えっと…志藤、と…?」
志藤と知り合ったのは、光が盲目となったあとのことだった。志藤は、以前から光のことを知っていたというのだが、サングラスをかけ白杖をついて来た光に驚いて声をかけてきた。そして、話してみれば、意外なことに本の趣味があう。そのまま本の話題を通じ彼とよく会話するようになったのだ。池田とも、光について図書館を行き来するようになってから知り合っている。
「まだ俺の片思い」
くすくすと笑う声が、光の耳に届く。池田が説明した、志藤の性格が少し天然が入ったもので、あまりうまくアピールできていないという言葉は、普段の二人をよく知っている光を納得させるものだった。
ただ、光にとって、古くからの友人であり、親友といってもいい付き合いの長さを誇る彼が志藤を好いていることに気付けなかったことは、少し淋しさを感じさせた。