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005

「そのときの古賀が…逆代先生とあんまり親しそうだったから、その…立場のことを考えられなくて」

 大河の性格からして珍しく歯切れの悪い理由が並べられる。大河の隣から塚本の呆れたような溜息が聞こえた。

「寿々さん」

 遮るように大河を呼べば、罰が悪そうな声で返事が返ってくる。
 寿々さんと話している。
 たった二日、三日話すことができなかった。それだけの間だった。それなのに、大河と言葉を交わすことができるという状況に、その声が光に向いていることに、嬉しさが胸を一杯にした。

「…すみませんでした」

 光の一言に、大河が慌てたような物音がする。

「俺、あのとき、ひどいこと言いました。今まで親しくしてくださっていたのに、いきなり他人だと、関わらないでくれって言いました」

 今まで対等に友人として付き合ってきてくれた人に、言うような言葉ではない。仕事上の付き合いだけだから、すぐに離れてくれ、というような言葉は。

「怖かったんです、関わることが」

 光は、人気者といわれる人物と仲良くすることで起こる数々の出来事を恐れていた。謂れのないバッシング、妬みや恨みを含んだ視線。大多数の人間から嫌われるという状況。
 平凡な人生を歩んできた光が望む平穏とは程遠いそれ。

「…でも。寿々さんとは、それを知った上で親しくしていきたい、と思いました」

 改めて、大河を見る。森の中で生きる、しなやかで孤高な大きな獣。触れてはいけないのに、触れたくなる気高さを持った存在。そして、盲目となった光に対等に接する優しさと度量を持っている。それに惹かれる光自身を認識した。その上で、彼に嘆願する。

「図々しいお願いです。でも、もう一度、仲良くしてくれませんか…?」

 大河も、あの時間を楽しんでいたと信じて。
 もう一度、チャンスを、あなたと過ごせる時間をください。
 動く気配がして、すぐに暖かなものに包まれた。耳元で、大河の声がする。

「それは、俺の台詞だと思ってた」
「じゃ、じゃあ…」
「その、これからよろしくな。古賀」
「…はい。よろしくお願いします。寿々さん」

 互いに笑いあう。光の眼が見えなくても、大河が満面の笑みを浮かべていることはわかっていた。
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