maskingtape

023

「あ、笑った」
「え、ごめんなさい。その、ちょっと想像したら」

 太一が連想した光景を話すと、確かに、と竜崎自身も苦笑した。
 食べ終えたお菓子の包装紙をビニル袋に突っ込んで、背後にあったゴミ箱へ入れる。夕方のゴミ箱は、中身がぎゅうぎゅうに詰まっていたが、特に気にすることなく、竜崎は押し込んだ。

「あと、菊井さん。敬語、やめてくださいよ」
「え?」
「だって、あなたの方が年上でしょう?」

 どうしてわかったのだろう、と、首を傾げる。すると、竜崎は、目元と手でなんとなく、と返してきた。顔の大半を覆ってしまったとしても、首や手には年齢が現れるという。確かに、竜崎と太一の手では、なんとなく肌の張りが違っていた。

「最初は、気づかなかったんですけどね。近くで話していたら、わかりましたよ」
「……よく、見てるんですね」
「はい。まぁ、小さい部活でも、主将をやってはいますから」

 人を見ることに慣れているのだろう。そうやって、相手との距離をうまく掴んできたのだろうか。

「それで、本題なんですけど」

 目を丸くした太一を見て、竜崎は困ったように肩をすくめた。

「もしかして、お菓子につられてやってきたと思いましたか」
「う、ううん……さすがに、それはないよ!」
「それならよかった」

 にっこり。そう表現できそうなほどの満面の笑み。ただ、一目で営業用スマイルと見抜けるような、つくりこんだ笑顔だった。

「菊井さんは、十津川のこと、どう思ってますか」
「どう、って」
「僕は、正直、あいつのことは嫌いです」

 はっきりした宣言だった。いっそ清々しい。なんとなく読めていた心情だったが、こうもはっきり言われるとは思わなかった。

「嫌い、って、なんでですか」
「まぁ、いろいろね。って、敬語、癖なんです?」

 つい出てしまった言葉遣いに、彼から柔らかな指摘が入る。話題が話題だけに、少し緊張してしまったことが原因だろう。つとめて、敬語を取り外すようにしながら、彼の言葉を促した。

「いろんな理由が、あるんですよ」

 理由もなしに嫌うほど、人間ができていないわけではありませんから。肩をすくめて彼は、そう言った。確かに嫌いになるということは、何かしら理由があるはずだ。それに、太一と違って、彼は第一印象はいい部類に入るだろう。好意的に受け止められることのほうが多いに違いない。

「普通にしていれば、僕も嫌うことはなかったんですけどね」
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