ねことばか
008
久住透哉について、ウメは、意外な答えを返してきた。久住透哉が生きていたことを彼は知っていたのだという。『な、なんで教えてくれなかったんだ…』
『いや、それっぽいというだけで確信じゃあねぇんだよ』
動物なのだから、衛生に敏感な病院に入れるわけがない。
ウメ曰く、偶然にも病院へ行く主を見かけたという。そのときの表情が気になったらしい。そのうち、病院へ行くたびに彼が切なそうに顔をゆがめることに気付いて、もしかしたらの可能性を考えた。それだけで情報提供するわけにもいかねぇだろう。ウメはそう言って締めくくる。
『なんだ、どうした』
話し終えても一言も返さない黒猫に、首を傾げて顔を覗きこむ。すると、トウヤはぽつり呟いた。
『…俺、入れないじゃん』
ようやく気付いたらしい。唐突に与えられた情報に真偽を確かめようとウメに相談をしにきたというのに、その可能性については一切考えなかったようだ。
しゅんと小さくなる黒猫に、大きなぶちは溜息をつく。
『まぁ、方法はあることにゃある』
『ほんと?』
飛びつくように顔をあげた透哉に、ウメは上体を逸らしつつ頷いた。
白黒のぶち猫が連れて来たのは、病院の中庭。
景観の為か、駐車場へと地続きになっているが、その間に背の高い木を垣根として使用していた。勿論、人間に意味があれど、猫には通じない。
葉っぱの間を通り抜けると、目の前に芝生が広がり、花壇があるのだろう赤や黄色などのカラフルな色が遠くに見えた。隣のウメが素早くあたりを見廻し鼻をひくつかせる。
『よし、いねぇな』
そろそろと猫らしく足音を立てないように中庭を横断し、エアコンの設備だろう箱が等間隔に置かれている壁際に到着した。箱に飛び乗り、そっと病院内を見回す。
平日だからか、老人がのんびりと歩き、コンビニ店員も暇そうに大あくびをしていた。カウンターはもう少し奥だろう。情報があるとすれば、そこだろう。人なら聞いてこれるのに。
『なぁ、ウメ。ここまで来たけど、場所がどこか知ってるのか』
『ん? あのにーちゃんはあそこの扉の中に入ってったから、そこじゃねぇのか』
ウメが示した先には、丁度スライド式のドアと上に数字がいくつも並べられたもの。エレベーターだ。ウメは、あそこに行けば到着すると思ってるらしい。そりゃそうか、猫は入ったことがないんだ。
to be continued...