ねことばか

005

 横を歩く友人が唐突に立ち止まった。いつものことだから無視して歩けばいいのに、俺の足も止まる。すでに彼は屈みこんで戯れている。

「また?」

 呆れた声をかけても、彼は何も答えずに微笑んだ。腕の中の子猫を撫でながら、自慢げに。ついでに手招きするものだから、俺の足は自然と彼のそばに行く。

「撫でてみ」

 壊れ物でも扱うようにそっと子猫を差出される。動物を上手に扱えない俺は、ただ首を横に振った。下手で臆病な俺が触るよりは、彼らもそっちの方がずっといいだろう。

「もー、透哉ちゃんは相変わらずだなぁ」

 崩れた笑みを浮かべて甘い声で子猫に話しかける。彼が首回りを掻いてやればごろごろと喉を鳴らした。子猫の小さな変化にいちいち反応しては締まりのない顔で眺めている。

 こちらを見る気配もない。

 あまりにも甘い声と視線に思わず、ミケたちが嫉妬するぞと呟いた。彼の飼い猫は、彼が野良猫と戯れたあとに必ず威嚇してくるのだ。ご機嫌取りがすごく大変なのだとそれでも緩んだ顔で話してくれたのはいつだったろう。

「そうだな。おっきい猫がお怒りだもんなぁ」

 一瞬目を瞠って、彼はそう言って俺へと視線を寄越した。違う。否定したにも関わらず、彼は目元を和ませただけだった。



 ぱちりと音をたてて開いた視界には、黒い毛並が映っていた。懐かしい夢。まだ人間として彼のそばにいたころ。

 耳をそよがせ、主のベッドから聞こえる寝息を確認する。ふと止まったそれとともに衣擦れも聞こえてきて、トウヤのために作られた寝場所から足を出した。身軽にベッドの上へ降り立てば、寝惚け眼の主と目があう。

 蒼ざめた顔だったがへらりと微笑んだ。二日酔いか。起き上がることも難しいらしい。こういったときに獣臭いのはよくないだろう。テレビ台のどこかに薬が放り込んであったことを思いだし、ベッドを飛び降りる。トウヤと名残惜しげな声が聞こえたが、ひとまずは彼の体調を優先だ。
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