絶対に来てはならないと言われている先輩の家があった。何故来てはいけないのか、その内容については誰も知らないが、ただなんとなく皆が先輩の家に寄り付くのを恐れていた。
ただ僕は先輩の家が気になり、その日大学を休んだ先輩の講義プリントを持っていくという名文を持って、先輩の家を訪ねた。不思議なもので誰も先輩の家に行きたがらないというのに、先輩の家を知っている人は多くいた。恐らく近づくのも恐ろしくて、知らず知らずのうちに近寄らないようにしているのだろう。
先輩の家は古い大きな家だった。屋敷と呼んだほうがいいのかもしれないと思うほど大きくて、呼び鈴なんか無いんじゃないかと思うほど古い家だったけれど、呼び鈴はしっかりあった。
ぶーとなる呼び鈴を押すと聞きなれた声が「はい」と返事をした。
「Aです」
僕が名を名乗ると
「どうして来た?」
先輩はひどく驚いていた。
「先輩が今日大学を休んだから、講義プリントを持ってきたんですよ」
「ああ、悪い。でも・・・いいや明日貰うから悪いけど、今日は帰ってくれないか?」
先輩は少し考えた後、そんなことを言ってきた。いつもの気さくな先輩からは想像も出来ない言葉だった。
「どうしてですか?」
先輩の家の秘密が知りたい僕はしつこく食い下がる。
「いや、今日は、ほら風邪ひいているし、お前にうつしちゃ悪いだろう?だから、」
「お入りなさいよ」
先輩がいろいろ言っている後ろから別の女の人の声がした。
「・・・・・・」
「お入りなさいよ」
先輩の家には入りたいけれど、本当に入っていいのか迷っていたら、もう一度同じ声がした。僕は意を決して先輩の家に入った。
玄関から中に入ると、先輩と女の人がいた。先輩は顔色が悪そうで、体調が優れないのが見て分かった。女の人は僕ににっこりと微笑んできて、僕は不覚にも顔を熱くしてしまった。女の人は僕に微笑みかけるとすぐにどこかへ消えてしまった。こんなに広そうな家だ。あの女の人を追いかけたくても迷子になるだけだろう。
女の人が去った後、先輩は申し訳なさそうな顔をした。
「・・・すぐに家に入れられなくてごめんな」
先輩は謝ると、僕を先輩の部屋に連れて行ってここで待っていてくれと言って部屋を出て行った。
玄関から此処まで、無遠慮にもじろじろと部屋を眺めてきたけれど、先輩の家は古いだけで、そんなに変なところがあるとは思えなかった。先輩が来るのを待つ間先輩の部屋で僕は居心地の悪さを感じた。仮にも女性の部屋だ。あまり動きすぎると勘違いされてしまうだろう。僕が所在なさげにそわそわしていると、先ほど玄関で先輩と一緒に僕を出迎えてくれた女の人が扉からにゅっと顔を出してきた。
「いいこと教えてあげようか?」
女の人は確かにそう言った。
「え?」
僕が聞き返すと、女の人は話し出した
「この家にはね、」
すると似たようなタイミングで先輩が湯飲みを持ったお盆を持って部屋から入ってきた。女の人が部屋の中にいるのを認めると、出て行くように言った。それでも出て行こうとしない女の人を見て、先輩は苛々したように女の人の腕を引き、老化に引っ張り出そうとする。女の人は頭を振り乱して、「どうして、どうして私だけが!!!」と叫んでいた。それに対して先輩は「お前だけじゃない、私もだ」と言って慰めていた。
 しばらくして先輩が部屋に戻ってきた。
「取り込んでいてすまないな」
「いえ、突然来たこちらが悪いんですし」
「さっき、あいつが言ったことは忘れろよ」
先輩は冷めてしまったお茶を飲みながら呟く。
「さっきの人は?」
「妹だ、いいか、忘れろよ」
先輩が何度も言うので僕は頷いた。
先輩の妹が言いたかったことって何なのだろう?忘れろよと言われながらも、僕は考えずにはいられなかった。


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