幻覚が見せたあの日の景色を


幻覚が見せたあの日の景色を信じて今日も傘をさしながら僕は君を待つのです。いつまでも来ない君を待つのです。

 僕と君の出会いも今日のような雨が降っているときでしたね。君は傘を忘れて、かばんを傘代わりにしていました。僕は傘を一本しか持っていないにもかかわらず、君に傘を貸していました。君は気付いていたのでしょうね。僕が君を一目惚れしていたことに。僕が渡した蝙蝠傘は君には似合わなくて、まるでお父さんの傘を借りてきた少女のように見えました。僕はいつまでも君の後ろ姿を見送っていました。
学校に行っては君を思い出す毎日、そんな僕に奇跡が起こったのです。なんと君は僕の学校と同じ学校の生徒だったのです。なんという幸運でしょう。僕はこの幸せに神に感謝せずにはいられませんでした。それから僕が君の後をつける毎日が始まったのでしたね。そのおかげで僕は君の名前、君の好きなもの、そして好きな人がいることを知ったのです。君はその好きな人のことをとても優しい人だと友達に話していましたね。僕は自意識が過剰な方ではないのですが、君と初めて出会った日、君に傘を貸したことを思い出し、君が僕のことを好きで居てくれるといいなと思ったのです。君は結局傘を返してはくれませんでしたが僕のものが君のそばにあると思っただけで、僕はとても嬉しい気持ちになるのです。
僕は君のことを思う気持ちを手紙に認めては、君の下駄箱に入れました。君は読んでくれたのでしょうか。君は読んでくれたのでしょうね。だって君は優しいのですから。誰かが苛められたら一緒に苛める。それは苛める側が責任感を持たないようにするためですよね。決して君が苛めたいわけではないことを世界で唯一僕が知っています。
僕はこんなにも君を思っているのに、君は僕を選んではくれませんでしたね。でも僕は君を諦められないのです。君の隣で笑う僕を想像せずにはいられないのです。

勇気を振り絞って君のことが好きだと君に言ったら
「私のことが諦められないのなら、私のことを待っていなさいよ」
君はこういってくれましたね。僕はいつまでも君を待ちます。君が来なくても君を待ちます。仮令(たとえ)君が来なくても、僕は待ちます。僕は僕自身を不幸せだなんて思いません。だって君を待っている僕の胸はこんなにも満ち足りているのですから。
雨だって虹を作るための待ち時間。


それは甘美な嗜虐心




title by メランコリア



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テーマ「人外ファンタジー」
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