烏の寵愛


 私の枕もとの青い薔薇。いつも寒々しい空気を私の寝室に呼び込む青い薔薇。
 お父様は言ったわ「私が元気になる頃にはこの薔薇も、元気だった頃の君の頬と同じくらい真っ赤になるよ」と。
 私、お父様は嘘なんか吐かないって信じてきたけれど、嘘だったのね。
私の身体はどんどん動かなくなるばかり。鉛色の脳みそはどうでもいいことばかり考えている。情報収集という役目を終えようとしている私の耳には、衰えていく私をあざ笑うように新緑が芽吹き、私に一切の情報をよこさない。私のほとんど意味を成さなくなった言葉たちは紫の雲でふわふわと誰の耳にも届くことなく天井に消える。
ねえ、お父様、あの薔薇は私の健康を祝して赤くなるんじゃないのよ、私の血で真っ赤になるの。でも、私の血だけじゃあ足らないんですって。お父様の血も下さる?

真っ白な病室の中で天井に向かって髪を振り乱しながら叫ぶ私の娘は美しかった。
私の戯言を信じ、段々動かなくなる身体に恐怖の色を滲ませ、そして泣き叫ぶ娘。私がこれから描く作品のモデルにはうってつけじゃないか。私の妻が私の友人との間にこっそりと設けていた子供、私が気付いたときには私の妻は分娩台の上だった。私の妻の胎内からはいずり出てくる真っ赤な血にまみれた赤子。私はこんな子供など育てる気などさらさらなれずにいたが、絵の具では表現できない真っ赤な色、誰が虜にならずに居られようか。私の作品
title by アセンソール
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