May I ask something?

 僕は煙草の匂いが大嫌いだ。暫く煙を嗅いでいると頭が痛くなる。きっと脳細胞が死滅しているに違いないと煙草の煙で頭が痛くなる度に思う。だけど、母さんの煙草の匂いだけは大丈夫。頭が痛くならない。
 僕の母さんはヘビースモーカーだ。僕と話している合間にも絶えず煙草を吸っている。換気扇を動かしながら。僕の頭の中ではこの匂いは母さんの匂いとして認識されているから、頭が痛くならないんだろうなと思う。
 母さんは夜遅くまで帰ってこない父さんを待つ。毎日毎日父さんを待つ。父さんは帰ってくる時もあるけれど、帰ってこない時の方が多い。母さんは夜ご飯を僕と食べて、父さんの分には蚊帳をかけて待つ。僕が時々「今日も父さん帰ってこないと思うよ」と言うと、「そうかもしれないね」と笑って、父さんを待つ。父さんが帰ってこなかった日の父さんの夕飯は次の日の母さんの弁当のおかずになる。
 夏休みに入ったある日、僕は母さんに「愛って信じてる?」と聞いみた。すると母さんは笑って「どうだろうね」と答えた後、いつになく饒舌に話し出した。
「私はね、大学生の時まで愛なんてないって思って生きてきた。そんなものまやかしだから、愛なんてものに振り回されて泣いたり笑ったりするのは馬鹿のすることだって思っていた。じゃあ、私は父さん母さん、つまりあんたのお祖父ちゃんお祖母ちゃんだね、から愛されてなかったかというと、そうじゃなかったのかもしれないね。もう二人とも死んじゃったから確かめようがないけど。今は愛ってものがあるって思っている。けど愛って何なんだろうね。さあ、もう遅いよ、おやすみ」
母さんはそれだけ言うと、また父さんを待った。母さんは知っていたのかな、父さんが不倫していたこと。母さんは僕を愛してくれたのかな、愛なんて何なのかわからないまま。母さんが愛とは何かわかったのかどうかわからない。もう死んでしまったから確かめようがないから。

title by アセンソール
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