agony

 「それじゃあね」
これからアルバイトだという彼は私よりも早く店を出た。
不器用な子だ。私が彼に対して思った第一印象。避けて通ればいいのにそれが出来ない子。ちょっとぐらいずるをしたってばれやしないのにそれが出来ない子。
あの子の純粋な目で見つめられると苦しさを覚える。あの子に初めて会った日見た夢は最悪だった。
水の中で溺れる私は呼吸が出来ずに、水面に向かって手を伸ばす。けれど、なかなか水面に届かないことがわかり周囲を見渡すと、水の中に大きな木を見つけその木にすがりつく。木を母のように頼り、そしてその枝に抱かれ私は木の一部となる。
目が覚めると尋常じゃないくらいの汗が出ていた。
(あの子は海?)
煙草に火をつけながら、ぼんやりとあの子の顔を思い出す。笑顔しか思い出せない。いや、笑顔しか見たことが無いのだ。すごい子だなと今更ながらに思う。社会人5年目の私だって起こったり泣いたり喚いたりするのに、あの子は笑うだけ。全てを受け入れることが出来るんだろうなと思った。嫌なこともいいことも全て受け入れて笑う。あの子はいつだって穏やかな海。
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