最期のワルツ


わらべ歌と辿る路

「かーごめかーごーめー、かーごのなーかのとーりーは、いーついーつでーあーう、よーあーけーの・・・・・・」
 今日は母の葬式であった。母は私を憎らしいと言いながら、私を恨みながら死んだ。それなら、私のほうが母を憎んでいる。私のほうが母よりもずっとずっと父のことを愛していたのに。父は母を愛したまま、母と私に看取られて死んだ。父が死んだ後の母はとても寂しそうで悲しそうで、父の遺影を見る姿は正に父に愛されていた女性といった様子だった。
私も60歳を越え孫までも持つ身となった。旦那は私の子をとても愛してくれている。子供も私を大切にしてくれている。孫も可愛らしくて、息子の嫁にも恵まれた。それなのに私の心は満たされることもなくこんな年まで生きてしまった。
私は父と母の一人娘で当然のように家を継いだ。家を継いだということはすなわち、父と母が愛し合う様子を見ながら生きていかなければならないということであった。それは私にとっては想像を絶する地獄であった。愛する人に愛していると言うこともできず、愛している人に愛していると言ってもらうこともできず、ただただ唇を噛みしめながら生きていた。
息子の嫁は私のことを嫁姑という争いを嫌う優しくていい義母でと思っているようであるが、それは大きな間違いだ。私は誰にも―父以外の人間には―興味が無かった、それだけのことだ。
母の葬式、出棺の後、孫の手を引きつつ近所を散歩した。
「おばあちゃん、なんだかうれしそうだね」
 孫が純粋な目で私を見てきた。私はとっさに、そう旦那や子供や孫たちにやってきたように表情を作った。悲しんでいるように見える表情を。
「そんなことないよ、お祖母ちゃんのお母さんが死んじゃってお祖母ちゃん、とっても悲しいんだよ」
純粋な孫は私の言葉と表情を素直に受け取り、
「かながいるからだいじょーぶだよ」
と言ってくれた。
「そうだね、おばあちゃんには加奈ちゃんがいるもんね」
 笑いかけてきた孫に微笑み返す。この加奈はどうも私と似ているような気がする。行動であったり言葉であったり。もしかしたらこの子も・・・考えすぎだろう。私はわらべ歌を口ずさみながら孫の手を引き家路をたどった。



title by 夜風にまたがるニルバーナ
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