飛べないキミに用はない

 奈津美―私の親友―に彼氏ができたらしい。フェンスの外側をよろよろと歩きながら彼女が来るのを待つ。フェンスは私にとって学校とか家とかそういう感じのもの。だから、フェンスの外とは、学校からの解放とか家からの解放とかそんな感じ。開放的なのである。
Hoobastankの曲を聴きながらフェンスの外を歩いていると「キャーーッ」という悲鳴が聞こえたので声の主を見てみると、奈津美であった。
「危ないよ、恵美」
奈津美があまりにも顔面を真っ青にして言うものだから、私はフェンスの中に入った。
「何回も言うけどさ、大丈夫だよ」
と私が言っても、奈津美は首をぶんぶん振って、「危ないから、やめてよ」と言ってきた。奈津美の言葉に口先だけで「うん」と言うと、奈津美はほっと安心した顔をした。
「そういえば、奈津美彼氏できたってね」
今日の本題を口にすると彼女は驚いた顔をしつつも、やっぱりという諦めみたいな顔もした。
「本当はね、私から直接伝えたかったんだけど」
「ごめんね、噂好きの子から聞いちゃった」
私が謝ると、奈津美はまた首をぶんぶん振って、「恵みが謝ることないよ、私が悪いんだから」と項垂れてしまった。私はスカートが汚れるのを気にせず、すとんとコンクリートの上に座り、私の隣をぺちぺちと叩きながら、奈津美にも座るように促した。
「おめでとうだねえ」
私がのんびりと言うと、彼女は項垂れたまま「・・・全然おめでとうじゃないよ」と呟いた。
「どうして?」と聞くと、彼女は今まで溜め込んでいたものを一気に吐き出した。
「だってね、彼氏と彼女なんだよ、世界に二人っきりなんだよ?なのに私の誕生日忘れちゃうし、二人の記念日も忘れちゃうし、他の女の子と平気で出かけたりするし、私は彼だけって決めてるのに、どうして彼は私だけって決めてくれないの?他の子はペアリング持っているのに私たちは持っていないし、他の子はデートたくさん行っているのに私たちはほとんど行った事ない。おかしいよ、おかしいよーーー」
奈津美は泣き出してしまった。私はどうしたらいいのかなと首の後ろをぽりぽり掻いた。『世界に二人っきり』なんとも文学的で奈津美らしい表現の仕方だとも思った。
「だから、私に言えなかったんだね?」
「・・・うん、だって・・・せっかく彼氏ができたんだよ?幸せなんだって言いたかった」
「じゃあさ・・・私とペアリング、買う?」
にっこり笑えば、奈津美はきょとんと状況を把握できていない顔をした後笑った。
「女同士でペアリング?」
「そうだよ、私と奈津美は親友だからね」
奈津美はひとしきり笑った後、「いいよ、買いに行こう」と言った。
私たちは手をつないで屋上から降りて近所のアクセサリー店に行った。
「私の彼氏はきっと恵美みたいにフェンスの外側を歩けない。だって臆病者だもん」
それを聞いて笑った私を見て、奈津美も笑った。
私と奈津美のペアリングを見て、クラスの噂好きのこと奈津美の彼氏が騒いだのは言うまでもない。



title by 風雅
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